徳永・松崎・斉藤法律事務所

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令和7年下請法改正のポイント

2026年02月10日

池田 早織 弁護士

  1.  下請法の改正
     令和7年5月に「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立し,令和8年1月1日から施行されます。
     今回の改正は,近年の急激な労務費,原材料費,エネルギーコストの上昇を受け,発注者・受注者の対等な関係に基づき,サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要との考えから見直されたものです。
     以下では,企業への影響が大きいと思われる改正のポイントについて説明します。
  2.  改正のポイント
    1.  法律名・用語の見直し(題名・新法1条,2条等)
       「下請」という用語は,発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘を受け,法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改正されます。
       また,「親事業者」は「委託事業者」,「下請事業者」は「中小受託事業者」,「下請代金」は「製造委託等代金」等に改正されます。
       今後「下請」という呼称は使われなくなり,「下請法」ではなく「中小受託取引適正化法」や「取適法」等と略されることになります。
    2.  下請法の適用対象の拡大
      1.  従業員基準の追加(新法2条8項,9項)
         改正前は,資本金を基準に下請法の適用対象を定めていましたが,下請法の適用を逃れるため,意図的に減資したり,受注者に増資を求めたりする事例が指摘されたことから,新たに従業員数の基準が追加されました。
         製造委託等の場合は,従業員数300人超の法人事業者が従業員数300人以下の法人事業者等に委託する場合,役務提供委託等の場合は従業員数100人超の法人事業者が従業員数100人以下の法人事業者等に委託する場合に適用になります。
         従前,資本金要件を満たさなかった企業についても,従業員数の観点から下請法の適用の有無についての確認が必要になります。

        <製造委託・修理委託・情報成果物作成委託(プログラムの作成に係るものに限る)・役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管および情報処理に係るものに限る)・特定運送委託>
        <情報成果物作成委託(プログラムの作成に係るものを除く)・役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管および情報処理に係るものを除く)>
      2.  特定運送委託の対象取引への追加(新法2条5項,6項)
         改正前は,発荷主が運送事業者に委託する物品の運送は,下請法の対象外とされていました。
         しかし,立場の弱い物流事業者が,荷役や荷待ちを無償で行わされている等の問題を受け,発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引が下請法の対象に追加されました。

    3.  協議を適切に行わない代金決定の禁止(新法5条2項4号)
       改正前から下請代金の減額や買いたたきは禁止されていましたが,今回,交渉プロセスに着目した規制が追加されました。
       昨今のような物価上昇等の状況下で,受託者から価格協議の求めがあったにもかかわらず,協議に応じず,または当該協議において委託者が必要な説明や情報の提供をせず,一方的に代金を決定する行為は禁止されます。
       もっとも,従前より「下請法に関する運用基準」や「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」において,適切な価格協議が求められており,各社対応されていると思いますので,実務上の影響としてはそれほど大きくないと思われます。
    4.  手形払等の禁止(新法5条1項2号)
       改正前は,手形サイトが60日を超える長期手形等での支払いが禁止されていましたが,今回,手形による支払いを全面的に禁止するとともに,電子記録債権やファクタリングについても,支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては使用が禁止されました。
    5.  面的執行の強化(新法5条1項7号,8条,13条)
       改正前は,事業所管省庁には中小企業庁の調査に協力する権限のみが与えられ,受託者が下請法違反を事業所管省庁に通報しても,「報復措置の禁止」の対象とされていませんでした。
       今回,事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与されるとともに,受託者が申告しやすい環境を確保すべく,「報復措置の禁止」の申告先として,公正取引委員会,中小企業庁長官に加え,事業所管省庁の主務大臣が追加されました。
  3.  今後の対応
     公正取引委員会によれば,令和6年度における下請法違反行為に対する勧告件数は21件,指導件数は8,230件であり,勧告件数は前年度の約1.5倍に増加しています。
     今回の改正を受けて,規制がより強化されることになりますので,改正内容を踏まえた取引の見直しが必要になります。
     現在,改正法規則及び運用基準等のパブリック・コメントが実施されておりますので,今後制定される運用基準等を踏まえて対応をご検討ください。