事務所報
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法廷百景
判例調査の今昔
2026年02月10日
- 「判例検索」については,法務担当者の方々はご存じのことと思います。紛争が発生したときの解決の方向性,新規事業の展開等について検討する際に必要とされる作業の一つで,過去に出された裁判例をみて,裁判となった場合の勝敗の確率,リスクの抽出に不可欠なものとされております。
- 現在では,最高裁の判決でも実務に大きな影響を及ぼすものについては,判決日のうちに最高裁のHPに判決文が掲載されるようです。仄聞したところですが,同一労働同一賃金に関する最高裁判決が同日に3件出たとき(R1.10/13)は,最高裁HPへのアクセスが集中し繋がりにくい状態となったそうです。最高裁以外の地方裁判所,高等裁判所の判決もこれを集めてネット上で検索できるサイトがいくつもあります(もちろん有料です)。判例検索の手法はネットだけではありません。昔から発刊されている「雑誌」を定期購読して行うこともできます。しかし,最近の若手の弁護士に話を聞くと,「判例を掲載した雑誌ですか?経費もかかるし,場所も取るし,キーワードでの検索もできないし,書面にコピペもできないし,持ち運ぶにも場所を取るし,…」といった具合で,雑誌はとことん時代遅れの悪者にされているようです。
- しかし,ひと昔前までは,判例検索は雑誌で行っておりました。しかも,雑誌にも,ランキングみたいなものがあって,最高裁民事判例集>最高裁判例集民事>判例時報>判例タイムズ>金融商事判例>金融法務事情…といった具合です。したがって,法律関係の論文を書くときは,今でもこのランキングに従って,最高裁民事判例集に掲載されておればその巻号頁を,掲載がなく最高裁裁判例集民事に掲載があればその号頁を…といった具合によりランキングの高い雑誌に敬意を表するような(?)引用をするのが通例となっております。
- 当然のことですが,最高裁判決が出ても雑誌に掲載されるまでは,その判決はないものとして実務は進んでいました。経験談を少しだけ。今から30年程前に,裁判所から人身保護法に基づく子どもの国選代理人の依頼がありそれを引き受けたことがあります。別居している夫婦の母親が子どもを育てていたところ,父親がこの子を連れ去ったという場合に,母親が父親に対して「人身保護法」という法律に基づき子どもの引渡しを求めることがよく行われていたのです。この法律に基づく引渡し請求がなされたときは,子どもの利益を考慮するために裁判所が国選代理人を付け,国選代理人が子どもの状態,連れ去られる前に母親のもとでどのような生活を送っていたのか,連れ去られた状況はどうだったのか,父親のもとでどのように過ごしているのか,母親父親のいずれで暮らすのが子どものためになるのか等を報告書にまとめて裁判所に提出し,裁判所はその報告と母親父親からの話を聞いて早期に判断を下しておりました。国選代理人に選任された私は,この趣旨に沿った報告書を提出しました。裁判所もこの報告書と双方の意見を聞いて,結果として母親父親双方合意したうえで和解による解決となりました。すべて解決した後に裁判官から言われたことは,「実は,2か月前に,最高裁で人身保護法の解釈を大きく変える判決がなされており,夫婦間の子どもの取り合いについて原則として人身保護法は使えないことなりました。この判決(H6.11/8)ご存じないですよね。我々も今知りました」といって,裁判所内部でのみ発行配布されている新聞(重要な最高裁判決等が掲載されている)を見せられ,ビックリしたことがあります(この判決を知っていれば,端的に人身保護法は使えない旨の報告書としなければならなかった)。この頃は,実務を大きく変える判決であってもこの程度の伝わり方だったのです。今とは隔世の感があります。
- 時代の変化についてゆける弁護士でなければ!と最近強く思っているところです。