事務所報
Insights
「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則と取締役会の実効性
2026年02月10日
- 「稼ぐ力」と「攻めの経営」(5原則①②③)
コーポレートガバナンスコード導入から10年,デフレ下のコストカット型経済から,賃上げと投資が牽引する成長型経済へ移行するにあたり,「稼ぐ力」を強化する必要がますます高まったとして,経済産業省は,2025年4月30日付で,「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(以下,「5原則」といいます。)及び「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」(以下,「ガイダンス」といいます。)を策定しました。
上場企業は,中長期目線での成長戦略を軸に,「攻めの経営」に取り組むことが求められています。すなわち,「攻めの経営」により「稼ぎ」,株主還元として株価及び配当をアップさせることが期待されています。一方で,これらが一過性のものとならないよう,持続的な成長のための成長投資も重要です。
上場企業としては,5原則①②③に示されたとおり,ストーリーを構築し,戦略的に投資原資を投資に配分し,中長期目線で回収し還元していく必要があります。取締役会5原則①価値創造ストーリーの構築
自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築する。
②経営陣による適切なリスクテイクの後押し
経営陣が,価値創造ストーリーの実現に向け,事業ポートフォリオの組替えや成長投資等,適切なリスクテイクを行うよう,後押しする。
③経営陣による中長期目線の経営の後押し
取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ,経営陣が,中長期目線で,成長志向の経営を行うよう,後押しする。
④経営陣における適切な意思決定過程・体制の確保
マイクロマネジメントとならないよう留意しつつ,経営陣の意思決定過程・体制が,迅速・果断な意思決定に資するものとなるよう促す。
⑤指名・報酬の実効性の確保
最適なCEOの選定と報酬制作の策定を行うとともに,毎年,原則1~4の内容も踏まえたCEOの評価を行い,再任・不再任を判断する。 - 取締役会に関し検討が望ましい事項(5原則④)
上記1で述べた中長期的戦略に基づく経営を行っていくために,戦略を検討する場である取締役会のあり方や実効性を検討することが有益です。ガイダンスにおいて一例が示されていますので,ご紹介します。- ガイダンスの位置づけ
ガイダンスは,TOPIX構成500社を対象としており,全ての上場企業が対象というわけではありません。また,ガイダンスは,多様な考え方や取組方法があることを前提に一例を示すものであり,一律に要請するものではないとされています。
一方,対象外の企業においても,取組を参考にしつつ,自社の経営環境やリソース等も踏まえながら,「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスの取組を自律的に行っていく潮流が生まれることが期待されると述べられています。
各企業においては,上記ガイダンスの趣旨を踏まえ,自社の取締役会の実効性を高める最適な方法について検討していくことが肝要と思われます。 - ガイダンスが一例として示す取締役会の役割
ガイダンスが一例として示す取締役会の役割は次のとおりです。
・企業価値を大きく左右する重要な経営事項(具体的な経営戦略等を含む)について十分な議論を行い,戦略的な方向性を示す。
・意思決定過程の合理性・透明性を確保しつつ,執行のリスクテイクを支える。
・執行のプロセスと成果の妥当性を検証し,執行を適切に監督する。
(ガイダンスP25「取締役会とCEOら経営陣の役割分担」参照)
後記 ⑷ において述べるとおり,取締役会において,日常的な経営に関する事項の報告が多く,戦略に関する議論の時間が不足していることが課題として認識されていると思います。 - ガイダンスが一例として示す取締役会の体制
ガイダンス4-4 B)において,社外取締役を取締役会議長とすること,CEOが議長を務める場合でも,筆頭独立社外取締役を設置することの検討を勧めています。ただ,議長を担える社外取締役の確保が難しいこと,当該社外取締役のサポート体制の構築も不十分であることが課題として認識されており,議長に社内の非執行取締役を充てるなどの対応も当面はあるとしています。
今後,TOPIX500を構成する会社においては,社外取締役が取締役会議長を務める事例も増えていくのではないかと推測されます。しかしながら,なかなかハードルが高いのではという印象もあります。議長となる社外取締役は,その役割を果たすため,独立性を保ちつつ,かなりの時間的・心理的なコミットメントを要すると思われますので,そのような人材供給プールの醸成までは少し時間が必要ではないでしょうか。 - ガイダンスが一例として示す取締役会の議論内容や開催の形態等
ガイダンス4-4 C)では,権限配分の検討,アジェンダと開催頻度の設定の検証の取組を求めています。
特に,取締役会の時間不足を招く執行報告説明を最小限とし,他の議論に時間を割くため,事前説明や質疑応答の実施,オフサイトミーティングや独立社外取締役会の活用を検討するなどの取組を挙げています。
執行報告等を最小限とするとしても,取締役が経営の執行状況を把握しておく必要は当然ありますので,特に経営会議等に出席しない社外取締役については,別途書面等による報告や,取締役会以外の時間で説明の時間を設けるなどの手当てをした方が良い場合もあると考えられます。
また,筆者は社外取締役としてオフサイトミーティングの経験がありますが,定例の会議と異なる環境で,取締役同士自由な意見交換を行うことは非常に有益であると思います。
- ガイダンスの位置づけ
- 最後に
上場企業は,自社の取締役会の役割を明確に定義し,自社にとって現在の体制ややり方が最適であるのか検証を続けていくことが望ましいといえます。結果的にこれまでどおりとすることは問題ないと思いますが,他社動向を把握するなどして,社会情勢の変化に対応することが重要です。
また,本稿では取締役会の体制等に限定して述べましたが,ガイダンスには取締役会実効性の評価,取締役の指名と報酬,CEO後継者育成,株主との対話と社外取締役対応等についても一例が記載されていますので,上記観点で検証を続けていただければと思います。