徳永・松崎・斉藤法律事務所

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日東電工事件(令和8年2月13日第二小法廷判決)

2026年05月21日

永原 豪 弁護士

  1.  事案の概要
    本件は、電気機器用品等の製造等を目的とするY社と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」)を締結してY社のA事業所で勤務していた日系ブラジル人らの労働者60名(以下「Xら」)が、期間の定めのない労働契約を締結している正社員とXらとの間で、通勤手当、扶養手当、リフレッシュ休暇、賞与及び賃金、年次有給休暇(日数及び半日休暇の可否)、特別休暇及び福利厚生等に相違があったことは旧労働契約法20条に違反するものであったと主張し、Y社に対して①不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めるとともに、②Xらは、Y社との当初の労働契約締結時から雇用区分の中における有期雇用契約社員ではなく準社員であったのに賞与が支払われなかったとして、主位的に、不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求め、予備的に、準社員としての地位に基づく賞与支払請求権に基づく賞与等の支払を求めた事案です。
  2.  一審判決(津地裁令和5年3月16日判決・労経速2519号3頁)
    1.  賞与の支払について
      Xらは、Y社と準社員として労働契約を締結したとは認められないから準社員であることを前提とした賞与に関する主位的及び予備的請求は棄却するとしました。
    2.  正社員との待遇差について
      職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲などに照らすと、「通勤手当」「賞与」「賃金」「有給休暇の付与日数」についての相違は不合理ではないが、「扶養手当」「リフレッシュ休暇」「有給休暇の半日単位取得」「特別休暇の存否・日数」については不合理と認められると判断しました。
  3.  原審判決(名古屋高裁令和6年9月12日)
    1.  賞与の支払について
      XらがY社と労働契約を締結した当時、有期雇用契約社員就業規則は存在せず、準社員就業規則及び正社員就業規則が存在し、準社員就業規則において準社員とは1年以下の期間を定めて雇用された者をいうとされていたのであるから、期間を6カ月とする有期労働契約を締結していたXらにも有期雇用契約社員就業規則が作成された平成23年11月2日までは準社員就業規則が適用されたというべきと判断したうえで、Y社は平成23年11月2日まではXらを準社員として扱うべきであったのにこれに反して賞与を支給していなかったのであるから不法行為に基づき賞与相当額を支払うべき義務があると判断しました。
    2.  正社員との待遇差について
      一審判決と同様に、「通勤手当」「賞与」「賃金」「有給休暇の付与日数」については不合理ではないとしたが「扶養手当」「リフレッシュ休暇」「有給休暇の半日単位取得」「特別休暇の存否・日数」については不合理としました。
  4.  最高裁の判断
    1.  賞与の支払について
      Xらの賞与に関する請求は、Xらに準社員就業規則が適用され賞与の支払いを求める具体的請求権(労働契約に基づく賃金債権)を有していたことを前提とするものであり、Xらがかかる賃金債権を有するのであればY社がその支払いを履行しなかったとしても契約に基づく金銭債務の不履行となるにすぎず、当該不履行自体は債権者の不法行為法上の権利利益を侵害するものではないから不法行為が成立するものではないとして、Y社の敗訴部分を破棄しました。
    2.  正社員との待遇差について
      「扶養手当」「特別休暇」についてはY社が上告受理申立理由書を不提出であったため上告を却下し、その余の上告は棄却されました。その結果、原審の判断が確定したことになります。
  5.  コメント
    1.  本最高裁判決は、賞与の不払いが不法行為に該当するとして賞与相当額の支払いを命じた原審判決を破棄し、賞与不払いという債務不履行は不法行為法上の権利利益を侵害するものではなく、不法行為は成立しないと判断した点に意義があります。
      原判決も認定するとおり、Xらに準社員就業規則の適用があるとするのであれば、賞与請求権が発生していると判断するのが当然であり、本判決は合理的なものであると思います。
    2.  無期契約社員と有期契約社員の待遇差については直接判断がなされたわけではありませんが、これまでの最高裁判決を受けた各種裁判例の傾向に照らしてもおおよそ是認される判断がなされていると評価できると思います。