徳永・松崎・斉藤法律事務所

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学生の職業選択の自由を妨げる行為(オワハラ)について

2026年02月10日

永原 豪 弁護士

  1.  オワハラとは?
     新卒採用競争を背景として、就職を希望する学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為(いわゆる「オワハラ」)が問題となっています。具体的には、「自社の内定と引換えに他社への就職活動を取りやめるように強要すること」「他社の就職活動が物理的にできないよう、研修等への参加を求めること」「自由応募型の採用選考において、内定と引換えに大学など又は大学教員などから推薦上の提出を求めること」「内定辞退の防止を目的として内定を承諾することについて保護者の同意を強要すること」「内定期間中に行われた業務性が強い研修について、内定辞退の防止を目的として、内定を辞退した場合に研修費用の返還を求めること又は事前にその誓約書を要求すること」等がオワハラに該当し得る行為とされています。
     オワハラ行為については、令和3年4月の若手雇用促進法に基づく「青少年の雇用帰化の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他関係者が適切に対処するための指針」の改正において、「採用内定・労働契約締結に当たって遵守すべき事項」において「採用内定又は採用内々定を行うことと引換えに、他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要すること等青少年の職業選択の自由を妨げる行為又は青少年の意思に反して就職活動の終了を強要する行為については、青少年に対する公平かつ公正な就職機会の提供の観点から行わないこと。」と規定されているところではありますが、当該行為が多くみられるようになったことを踏まえて、本年3月に改めて政府から当該行為を控えるよう要請がなされているところです(令和7年3月21日付「2026年度卒業・終了予定等の就職・採用活動に関する要請等について」)。
  2.  新卒採用時の労働契約の成立時期と内定辞退の可否
     そもそも新卒採用においてはどの時点で労働契約が成立するのでしょうか。
     この点については、企業による募集が労働契約申込の誘引であり、これに対する応募が労働者(学生)による契約の申込みであり、採用内定の発信が企業による契約の承諾であり、始期付解約留保権付労働契約が成立すると考えられています【大日本印刷事件(最2小判昭54.7.20民集33.5.582等】。具体的な労働契約の成立は個々の拘束関係の度合いで判断されることになりますが、通常は採用内定開始日に発せられる採用内定通知によって成立すると考えられます。 
     企業においては、労働契約が成立した後は、学生(内定者)を拘束したい(内定辞退せずに入社してもらいたい)と考えるのは当然ではありますが、労働契約が成立した後であっても、労働者は原則としていつでも労働契約を解約することができる(民法627条1項)ことに留意する必要があります。労働契約成立後も内定辞退することが可能であることは内定辞退者に対する損害賠償請求が否定された裁判例【X社事件(東京地判平24.12.28)】においても認定されているところです。
     また、学生(内定者)への入社への不当な拘束は、学生の憲法上の権利である「職業選択の自由」の侵害に該当する行為となりますので違法となるばかりではなく、企業の社会的信用の失墜等につながりかねません。
  3.  オワハラに該当するかどうかの判断基準について
     オワハラに該当するかどうかは、職業選択の自由の侵害に該当するものと評価できるかがポイントであり、具体的には、①どのような行為態様であるのか(拘束性の程度)、②どの段階における拘束であるのか、の2つの視点から判断する必要があると考えられます。すなわち、どのような行為態様であるのか、学生に対する拘束性の程度が強ければ強いほど違法となるリスクが高くなる関係にあり(①)、入社時期に近ければ近いほど拘束することが許容されるという関係にあるということになります。
     したがって、内定時期よりも前の段階で内定と引換えに他社への就職活動を取りやめるように強要することは、職業選択の自由を過度に制約するものであり、当該拘束時期に鑑みてもオワハラとして違法となる可能性が高いことになります。
     採用環境が厳しい状況下においてはいかに優秀な人材を採用して入社させることは企業においては重要であるものの採用を優先してオワハラ行為に及んでしまうことは以後の採用活用にも影響を与えかねませんので慎重に対応いただく必要があると考えます。
     具体的な内定者への対応などについてのお悩みの点がございましたら遠慮なくご相談下さい。