取締役に善管注意義務違反が認められる場合の監査役の責任の判断
~大阪地裁決定 H27.12.14~
2016年02月29日更新
- 監査役の責任に関する事案をご紹介します。
取締役に善管注意義務違反がある(又はおそれがある)場合の監査役の責任を判断した事案です。
結論としては監査役の責任を否定しておりますが,その基準を「取締役が善管注意義務に違反する行
為等をした,又は,するおそれがあるとの具体的事情があり,監査役がその事情を認識し,又は,認識することができたと認められること」としております。
特に,監査役がその就任以前の取締役の善管注意義務違反について責任を負うか否か,監査役の職務遂行にあたり参考になると思います。 - 事案の内容
- 甲社は,親会社Aとの間で,下記業務委託契約を締結していた。
- H2年より,経営管理指導に関する業務委託契約
委託料年1000万円ないし4000万円 - H12年ころより,コース管理契約
- H12年ころより,建築設備管理に関する業務委託契約
以上②③併せて委託料年2億円あまり。H12年3月期以前に甲からAへコース管理を行う従業員が転籍していた。
- H2年より,経営管理指導に関する業務委託契約
- H16年,甲社は,A社に対し所有不動産を7800万円で売却したが,担保を受けることなく分割払いの合意をした。
- H25年,甲社(ゴルフ場経営)は会社更生法に基づく更生手続開始決定を受け,管財人として弁護士Xが選任された。
- Xは,甲社の監査役Y(H13~)の任務懈怠を理由として,更生裁判所に対し,1億7781万8363円の損害賠償請求権につき査定の申立てを行った。
- 経営管理指導に関する業務委託契約に基づく委託料は不当に高すぎ,支払いを放置したのは監査役の任務懈怠である
- コース管理・建築設備管理に関する業務委託契約に基づく年2億円あまりの委託料支払いを放置したのは監査役の任務懈怠である。監査役は,不要な業務委託であるとの疑問を抱いて転籍の事実を調査すべき義務があった。
- 分割払い合意当時において既に5億円以上の債務を負い,合意どおりに弁済していなかったことや甲が預託金返還債務を負っていたことからすると,担保設定を受ける等する義務があり,これを怠ったのは監査役の任務懈怠である。
- 甲社は,親会社Aとの間で,下記業務委託契約を締結していた。
- 結論
- 申立てに理由がないとして棄却。
- 理由
- 経営管理指導に関する業務委託料としては,コース管理・建築設備管理委託料と比較しても高すぎるとはいえない
- コース管理・建築設備管理に関する業務委託契約に先立ち,甲からAへ従業員の転籍が行われたが,Yが監査役に就任したのは転籍の後であり,その後取締役会で転籍が議題に上ったことはなく,取締役の善管注意義務違反を構成するような従業員の転籍行為があったことを具体的に基礎づける事実関係を認識していたとは認められない
- 確かに担保を取る等の手段を取ることが望ましかったともいえるが,Aは直近の決算で5000万円以上の現預金,1280万円の経常利益を計上しており,その後も同様の財務状況であったこと,事業計画収益予測によれば,履行可能性がないとはいえない状況であった。また,Aは事業計画を実施するにあたり金融機関から融資を受けており,金融機関は事業計画を審査したはずであるから,Aの収益予測には相応の合理性があったものと推認できる。よって,Yが事業計画の収益予測が不合理であるとの疑問を抱くような資料があったとは認められない。
また,本件合意当時,甲者は債務超過状態ではあったが,預託金返還問題は一段落して親会社に支援をすることが不合理であったとはいえない。
- まとめ
本件は,取締役には善管注意義務違反が認められるとの前提で,監査役がその事情を認識し,又は認識し得た具体的事情の有無を判断基準としたものであり,結論として妥当であろうと考えます。
具体的事情は個別事案ごとに異なりますので,監査役が職務を遂行するにあたっては,十分な資料を求め,細心の注意を払うべきであることは言うまでもありません。