会社法制(企業統治等関係)の見直しについて
2018年08月10日更新
- はじめに
平成29年4月より,法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会のもとで,企業統治等に関する会社法の改正について審議がなされています。
平成30年7月時点でこれまで14回の会議がなされており,平成30年2月14日には,見直しに関する中間試案が取りまとめられました。
ここでは,見直しの主要なポイントの概要を説明させていただきたいと思います。 - 株主総会資料の電子提供
株主総会参考書類,計算書類及び事業報告等,株主に対して提供しなければならない資料(株主総会参考書類等)について,インターネット等を利用する方法での提供措置(電子提供措置)制度の新設が検討されています。
具体的には,電子提供措置について定款を定めることができる旨を規定するとともに,電子提供措置が義務付けられる場合や,提供すべき事項等についてルールを設定する予定となっています。
なお,本件制度のもとでは,株主による書面交付の請求を認める方向で検討されていますが,一度書面交付請求をした株主についてその後の株主総会ではどのように取り扱うか,そもそも書面交付請求ができない旨を定款で定めることができるか等といった点が今後の検討論点になる模様です。 - 株主提案権
近年,一人の株主に寄る膨大な数の議案提案や,株式会社を困惑させる目的での議案提案といった,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られること等を踏まえ,同一の株主総会において提案できる議案数を制限する,不適切な内容の提案を制限するといった規定の新設が検討されています。
このうち,議案数の制限に関しては,上限数をどうするのか,議案の数をどう数えるのか(定款変更の議案の場合等)といった点が今後の検討論点になる模様です。 - 取締役等への適切なインセンティブの付与
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取締役の報酬等
取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与する手段として機能することを趣旨として,取締役の報酬等に関する規律の見直しが以下のとおり検討されています。- 報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めているときは,取締役の報酬等に関する議案を株主総会に提出するに当たり,当該議案が方針との関係でどのような意義を有するかを説明しなければならない
- 金銭でない報酬等(株式・新株予約権(以下,「株式報酬等」といいます))に係る株主総会の決議による決定事項の具体化
- 公開会社において,取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定を取締役に再一任する場合は,株主総会決議を必要とする
- 株式報酬等において,財産の出資を不要とする
- 公開会社における事業報告での情報開示の充実
- 会社補償,役員賠償責任保険契約
会社補償や役員等賠償責任保険契約など,役員等が責任を負う場合のリスクを低減させるという形での,インセンティブの付与についても,規定の新設が検討されています。
いずれも,条文解釈や運用上定着している仕組みではありますが,解釈上の疑義を払拭し法的安定性を高めるため,利益相反取引に該当しないことや具体的な手続について明記することが予定されています。
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- 社外取締役の活用等
現行法では,「業務を執行した」場合には社外取締役の要件を満たさないこととなりますが,見直し案では,当該業務の執行について株式会社と取締役の利益が相反する状況等の場合,取締役会の決議で社外取締役に当該業務を委託できる旨の規定の新設が検討されています。
また,監査役会設置会社において,取締役の過半数が社外取締役であることその他一定の要件を満たす場合には,指名委員会等設置会社において執行役に委任ができることと同様に,重要な業務執行(会社法362条4項)の決定を取締役に委任できるとする規定の新設も検討されています。
その他,平成26年改正の際に,「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならなくなった会社に対して,同改正時の検討条項に従い,社外取締役を置くことの義務付けをするかどうかといった点が検討される予定です。 - さいごに
上記以外にも見直しが検討されている項目は多岐にわたりますが(社債の管理,他の株式会社を子会社とする場合の株式交付等),今回は特に重要と思われるポイントに絞らせていただき,その他の部分は紙幅の関係上省略させていただきました。
今後,具体的な改正内容が決まり次第,実務上の問題点も含め改めてご報告いたします。