徳永・松崎・斉藤法律事務所

テレビ宮崎事件(福岡高等裁判所宮崎支部令和4年7月6日判決)

2023年05月29日更新

池田 早織 弁護士

  1.  事案の概要
    1.  ㈱テレビ宮崎(Y1社)を退任した元代表取締役Xが,Y1社及び代表取締役Y2に対し,退任慰労金減額分の損害賠償を求めた事案です。
    2.  Xは,株主総会において内規に基づき取締役会が決議した退任慰労金をXに支払うことを委任する旨決議されたのに,Y2が故意又は過失により委任の範囲又は内規の解釈・適用を誤ったため,取締役会において委任の範囲を超える減額を行う旨の決議がなされたなどとして,Y1社及びY2に対し2億円余りの損害賠償等を請求しました。
    3.  なお,退任慰労金に係る内規には,退任時の報酬月額に支給率累計を乗ずる方法により算出する「基準額」が定められていた他,取締役会は,退任取締役のうち,在任中特に重大な損害を与えた者に対し,基準額を減額することができる旨が定められていました。
    4.  Xに対する退任慰労金については,専門家による調査委員会が設置され,調査委員会は,X限りの判断で支出できるCSR事業等の支出額の上限を超える額は退任慰労金から特別減額できる旨の報告をしていました。その後,取締役会は,調査委員会の報告を踏まえ,基準額から減額可能なCSR費用等を控除した額を退任慰労金として支給する旨の決議を行いました。
  2.  結論
    X勝訴(原審で全額が認容され,控訴審でも原審の判決が維持されました。)
  3.  判断の理由
    1.  本件株主総会決議は,Xに支給する退任慰労金につき,内規を適切に解釈適用し,その額を算定することを取締役会に委任するものであったと認められる。
    2.  CSR費用等の支出については,Y1社の経営状況だけでなく内部の手続合理性を踏まえても,「特に重大な」損害を与えたとは認められないのに,本件取締役会決議は,内規の解釈適用を誤り,CSR費用等の支出についてまで特別減額をしたものであり,株主総会決議で与えられた裁量を逸脱ないし濫用したものと認められる。
    3.  本件取締役会決議は,Xと利害関係のない弁護士等で構成された本件調査委員会が相応の期間を費やしてXからの聴き取りを含む調査を実施し,取りまとめた詳細な最終報告書を踏まえたものであるが,この最終報告書が内規の解釈適用を誤ったものでないかについては,Y1社の取締役会が独自に判断すべきものである。
      Y2は,Y1社の職務を執行するに当たり,故意ないし重大な過失があったとまでは認められないものの,本件株主総会決議の委任の範囲又は内規の解釈適用を誤った過失があったと認められる。
  4.  コメント
    本件では,CSR費用等の支出を理由とする退任慰労金の減額について,取締役会が内規の解釈適用を誤り,株主総会で与えられた裁量を逸脱・濫用したと認定した上で,代表取締役に過失があったとして,不法行為責任が認められました。
    株主総会において支給基準に基づく決定を委任された取締役会が,基準に反して退職慰労金の不支給または減額を決議した場合,取締役らは,退任取締役に対して不法行為責任を負うとされています(東京地判平成6年12月20日判タ893号260頁,東京地判平成10年2月10日判タ1008号242頁等)。
    本件では,取締役会の判断が調査委員会の報告に基づくものであった点が特徴的ですが,判決では,当該報告が内規の解釈適用を誤ったものではないかは取締役会自身が独自に判断すべきものであるとしています。この点については,内部者である現経営陣が独立性のある調査委員会による提言を拒絶することは期待できないため,取締役個人に過失を認めるべきではないとの指摘もなされているところです(得津昌「判批」ジュリスト1576号145頁)。本件は上告されており,最高裁による判断が待たれます。
    以上

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