パワハラ行為に対する懲戒処分について
2023年05月29日更新
- パワハラ行為に対する懲戒処分について
労働施策総合推進法の改正によって企業に職場におけるパワーハラスメント対策が義務化されて以降,パワハラ行為に該当するかどうか,パワハラ行為に対する懲戒処分のグレードについてご相談を受けるケースが増えているように思います。今回は,公務員の事案ですが,高等裁判所が裁量逸脱であり違法とした判断を最高裁が破棄した2つの事案をご紹介します。 - 氷見市事件(最三小判令4.6.14・労経速2496号3頁)
この事案は,氷見市の消防職員が上司および部下に対する暴行等を理由として停職2月の懲戒処分(第1処分)を受けた後,その停職期間中に,暴行の被害者である部下に面会を求めたこと等を理由として停職6月の懲戒処分(第2処分)を受けたことについて処分の取消しなどを求めたものです。
名古屋高裁はこの第2処分について,隠蔽工作等の動機や態様はそれなりに悪質だが,業務復帰後に同種行為が反復される危険性等を過度に重視することは相当ではなく,第1処分の停職期間を大きく上回り,かつ停職期間の上限である6か月とするのは重きに失するとして取り消しました。
これに対し,最高裁は,第2処分の対象となる行為は,「懲戒の制度の適正な運用を妨げ,審査請求手続の公正を害する行為というほかなく,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に明らかに該当することはもとより,その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない」,また,第1処分の停職期間中に第2処分の対象行為がなされており,第1処分における非違行為について何ら反省していないことがうかがわれることにも照らせば,第1処分の非違行為である暴行・暴言等と同種の行為が反復される危険性があると評価することも不合理であるとはいえないとして,第2処分についても,懲戒権者の裁量権の範囲内として高裁の判断を取り消しました。 - 長門市・市消防長事件(最三小令4.9.13・労判1277号5頁)
この事案は,部下約30人に対して暴行,暴言,卑猥な言動等の約80件のハラスメント行為を行った消防職員(小隊長)が受けた分限免職処分の取り消しなどを求めた事案です。この事案で,高裁(広島高裁)段階では,消防組織では公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され,ある意味で開放的な雰囲気が従前から醸成されていたこと等の独特の職場環境があり,それを背景とするハラスメント行為は,単に被処分者個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質,性格等にのみ基因して行われたものとはいい難いとして免職処分を取り消した第一審の判断を維持していました。これに対し,最高裁は,①ハラスメント行為が5年を超えて繰り返され,②約80件に上り,③被害者も約80名と多数であり消防職員の約半数近くを占めており,④その内容も刑事罰を科されたものも含む暴行,暴言,極めて卑猥な言動等多岐にわたることから,「こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき,公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。また,本件各行為の頻度等も考慮すると,上記性格を簡単に矯正することはできず,指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることも不合理な点は見当たらない」等として,「免職の場合には特に厳密,慎重な判断が要求されることを考慮しても」,本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできないとし,「このことは,上告人(長門市)の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない」と判断しています。 - まとめ
いずれの事案も,処分を受けた行為者の行為が悪質であり,両市の下した処分は適法とされるのは当然であると思われますが,この二つの最高裁判例からは,裁判所がハラスメント行為に対して厳しい目で判断するようになったと評価できると思います。企業におけるハラスメント行為に対する厳正な処分を検討するに当たっては,これらの裁判例の判断内容を参考にすることができるため紹介した次第です。
ハラスメント行為への処分の妥当性については,事案の内容・悪質性,被害の程度,行為者のこれまでの勤務状況,過去の処分との均衡等様々な事情を踏まえて判断する必要がありますので,処分内容の妥当性についてお悩みの差異は遠慮なくご相談ください。
以上