徳永・松崎・斉藤法律事務所

親会社の取締役に子会社の監督義務があるのか!?

2014年12月01日更新

  1.  子会社の違反行為等により親会社に損害が発生した場合,親会社の取締役に子会社の監督責任が認められることがあるのでしょうか?
    子会社の経営は,子会社の取締役の権限と責任で行われるものです。したがって,子会社が違反行為等を行った場合に法的責任を問われるのは原則として子会社の取締役であり,親会社取締役が子会社に対する監督責任を問われることは原則としてないというのが基本的な考え方でした。
    従来の判例でも,例えば,野村證券のアメリカにおける100%孫会社が違法行為を行い課徴金を課されたことに対して,野村証券の株主が,同社の取締役らの責任を問う株主代表訴訟を提起した事案では,「親会社の取締役は,特段の事情がない限り,子会社の取締役の業務執行の結果,子会社に損害が生じ,さらに親会社に損害が生じた場合でも,直ちに任務懈怠の責任を負うわけではない」として,親会社取締役の子会社に対する監督責任は原則として存在しないと判示されました(東京地裁平成13年1月25日判決)。
  2.  ところが,親会社取締役の子会社に対する監督義務違反を一定の範囲で認める判例が登場しました。
    事案としては,福岡魚市場の100%子会社が「グルグル回し取引」という一種の循環取引を行っていたところ,その在庫が蓄積して不良在庫となり,結局,福岡魚市場が金融支援したものの経営破綻したというもので,福岡魚市場の株主が,同社の取締役らに対し,子会社への不正融資等により18億8,000万円の損害を被ったとして,損害賠償の支払いを求める株主代表訴訟を提起しました。
    第1審(福岡地裁平成23年1月26日付判決),控訴審(福岡高裁平成24年4月13日付判決)とも「親会社取締役の子会社に対する監視義務違反」があったことを認め,最高裁(最高裁平成26年1月30日判決)においても,この点についての直接の判断はなされていないものの,第1審,控訴審の判断が維持されました。
    この監視義務について,判旨では,「被告らは…従前から問題とされてきた在庫の増加について,取締役会等における指摘及び指導にもかかわらずこれが改善されないことを認識していたのであるから,…福岡魚市場の取締役として,福岡魚市場及び子会社の在庫の増加の原因を解明すべく,従前のような一般的な指示をするだけでなく,自ら,あるいは,子会社の取締役会を通じ,さらには,子会社の取締役等に働きかけるなどして,個別の契約書面等の確認,在庫の検品や担当者からの聴き取り等のより具体的かつ詳細な調査をし,又はこれを命ずべき義務があったといえる。…にもかかわらず,被告らは何ら具体的な対策をとることなく,子会社ひいては福岡魚市場の損害を拡大させることに至ったのであるから,被告らには上記内容の調査義務を怠った点につき,忠実義務違反及び善管注意義務違反が認められる」と述べられています。
  3.  平成26年会社法改正の議論の中では,親会社取締役による子会社の監督義務を明記するかどうかの検討もなされましたが,最終的には見送られました。
    この点,上記判例が,親会社の取締役に子会社の一般的な監督義務を認めたものか否かは明らかではありませんが,少なくとも,親会社の取締役としては,子会社に不正の兆候が見られる等した場合には,調査を実施する等して,子会社に対し適切に監督,指導等を行うことが求められているといえそうです。

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