徳永・松崎・斉藤法律事務所

ヨロズ株主提案議題等記載仮処分申立事件
(東京高決令和元年5月27日)

2020年05月19日更新

 株主提案の増加傾向が言われて久しいところですが,2018年7月から2019年6月総会において行使された株主提案権は延べ65社70件であり,前年に比較すると9社8件増加したとのことです。これ以外にも取り下げられた株主提案7件があるようです。福岡でも,昨年の総会では,海外機関投資家による株主提案がなされたことは記憶に新しいところです。
 今回は,株主提案の適法性が問題となった興味深い事案についてご紹介します。

  1.  事案の概要 
     甲社(東証1部,取締役会設置会社)には「株主総会においては,法令または本定款に別段の定めのある事項を決議するほか,当会社の株式等(金融商品取引法27条の23第1項に定めるものをいう)の大規模買付行為への対応方針を決議することができる。」との定款の定め(以下「本件定款規定」といいます。)があり,平成30年6月の定時株主総会において,甲社株式等の大規模買付行為に関する対応方針(事前警告型買収防衛策,以下「本件買収防衛策」といいます。)の継続が承認されました。株主Xは,甲社に対し,令和元年6月開催予定の定時株主総会において,本件買収防衛策廃止の件(以下「本件議題」といいます。)を議題の目的とすることおよび本件議題及び議案の要領等を株主総会招集通知および参考書類に記載することを求める株主提案(以下「本件株主提案」といいます。)を行いました。
     これに対して,甲社が,本件株主提案権は適法性に疑義があるとして株主総会では取り上げる予定はないとの適時開示をしたため,Xは,本件議題に関する議案提案権及び議案要領通知請求権を被保全権利として,株主総会の招集通知及び株主総会参考書類に本件議題及び議案の要領等を記載することを命じる仮処分を申し立てたという事案です。
  2.  裁判所の判断
     裁判所は,会社法の規定(303条2項,305条1項)から,株主の議案提出権の対象は,株主総会の権限の範囲に属する事項に限られ,取締役会設置会社では,会社法の規定する事項及び定款で定めた事項に限り決議することができるとされている(会社法295条2項)ことから,被保全権利が認められるためには,本件買収防衛策の廃止が会社法に規定する事項または定款で定めた事項である必要があると述べた上で,買収防衛策の廃止は会社法上の決議事項ではないため,定款において総会において決議すべき事項と定められている必要があるとしました。そのうえで,主に以下の3点を理由として,本件定款規定における大規模買付行為に対する「対応方針」にはその「廃止」は含まれないとして,被保全権利を否定し,Xの即時抗告を棄却しました。

    1.  取締役会設置会社では,業務執行の決定は取締役会または取締役会の委任を受けた業務執行取締役らの職務権限に属するものとされていることからすれば,業務執行の決定を株主総会決議事項とする旨の定款の定めは取締役会の判断権限を例外的に制約するものであり,その範囲は厳格に解するべきである。事前警告型買収防衛策の導入は,その性質上,取締役会において決定することができるものであり,現に,株主総会の決議なしに,あるいは定款に規定がないままなされた株主総会決議を踏まえて取締役会の決定でその導入する会社も存在すること,敵対的な買収に対する防衛策に導入についてはともかく「廃止」については総会の決議によらないとすること自体は合理性がある。
    2.  買収防衛策について株主総会で決議できる旨の定款規定を有する株式会社においては,買収防衛策の廃止が決議の対象となると定款に明記しているものがあるが,本件定款には廃止が決議の対象となることが定められていない。
    3.  本件買収防衛策は取締役会において廃止することが可能であり,本件買収防衛策の「廃止」は株主総会の排他的決議事項ではない。
  3.  コメント
     買収防衛策の導入・更新する企業が減少傾向(昨年の総会で更新を迎えた企業の更新率は約6割であった)からすれば,今後も,同様の株主提案が増えてくるかもしれません。
     本件事案において,仮処分の申立てを認容しなかった結論は妥当だと思いますが,本件定款規定に関する形式的な文言解釈に依拠して被保全権利を否定した点については異論の余地があるように思います(なお,原審では,保全の必要性を否定して申立てを却下しています)。

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