徳永・松崎・斉藤法律事務所

調査報告書の記載と名誉毀損の成否
(東京高裁令和3年9月15日判決)

2022年06月06日更新

南川 克博 弁護士

  1.  はじめに
    昨今,社会全体のコンプライアンス意識の高まり等を背景に,企業内不祥事が発生した際,いわゆる第三者委員会を設置し,調査を実施するケースが増えています。
    今回ご紹介する事案は,対外的に公表された調査報告書の記載について,名誉毀損が認められるかという点が問題になりました。
    なお,紙幅の関係で事案のご紹介は要約させていただきます。事実関係や判決の詳細をご確認されたい方は,金融商事判例1633号(2022年2月1日号)8頁以下をご参照下さい
  2.  事案について
    1.  概要
      Y1社の創業者であるXが,Y1社が設置した特別調査委員会(本件委員会,Y2ら3名の弁護士で構成)が自身の不正行為に関する調査報告書(本件報告書,なお個人名や企業名には匿名処理が施されている)を公表した点について,Y3(Y1社の取締役管理本部長の地位にあった者)が提供した虚偽の情報に基づく本件報告書であり,Y1社の代表取締役であるY4が本件報告書を公表したことでXの名誉が毀損されたとして,Y1らに対し,共同不法行為による損害賠償を求めたものです。
      原審はXの請求を棄却したため,控訴されたのが本件となります。
    2.  争点
      本件報告書内の各論評(本件各論評)がXの名誉を毀損するとしても,公正な論評として違法性が阻却されないか,が主な争点となりました(なお,本件論評によりXの社会的評価が低下した点については当事者間で詳細に争われてはいません)
    3.  裁判所の判断(下線・かっこ書きの記載は筆者による)
      裁判所は,概要以下の理由を述べ,Ⅹの控訴を棄却しました。

      1.  まず,本件各論評の内容は,いずれもY1会社の取締役であったXが,個人の利益を図るため,海外子会社等に経済的損失を与えた旨を指摘するものであり,一般読者の普通の注意と読み方を基準とすると,Xの社会的評価を低下させると認められるとし,Y3による情報提供と論評による社会的評価の低下の間に相当因果関係が存在するとしました。
      2.  ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その(意見・論評)行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであるとして,さらに仮に前提としている事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,故意または過失は否定されると判断しました。
      3.  そして,本件各論評の内容は,上場会社であるY1社の株主を始めとする多数の利害関係者の公共の利害に関する事実に係るものであり,かつ,これを公表することは,多数の利害関係者に対し本件委員会による調査結果を説明するものであって,目的は専ら公益を図ることにあるということができ,具体的な表現内容は意見ないし論評としての域を逸脱したものとは認められないと判断しました。
      4.  さらに,本件各論評の基礎事実については,重要な部分について真実であると認められるため,本件各論評は違法性を欠き,名誉毀損による不法行為は成立しないとしました。

       なお,仮にY4がXをY1社の経営陣からの排除等を考えていたとしても,それをもって真実性や公益目的性の認定が覆されるものではないとし,本件委員会や本件報告書の独立性,中立性を欠くものとは認められないとも述べました。

  3.  (若干の)考察など
    1.  過去の判例について
      最高裁平成9年9月9日判決は,事実を適示した場合の名誉毀損については,①公共の利害に関する事実に係ること,②専ら公益目的であること及び③真実性の証明の3要件を満たす場合には違法性がなく,真実性の証明がなくとも③’真実と信じることにつき相当の理由がある場合は,故意または過失がないとして名誉毀損の成立を否定すると判断しました。他方,ある事実を基礎としての意見・論評の表明による名誉毀損については,ⅰ公共の利害に関する事実に係ること,ⅱ専ら公益目的であること及びⅲ意見・論評の前提となる事実の重要な部分についての真実性の証明の3要件を満たす場合には違法性がなく,真実性の証明がなくともⅲ’真実と信じたことについて相当の理由がある場合には故意または過失が否定され,名誉毀損の成立を否定すると判断しました。
      また,最高裁平成16年7月15日判決は,法的な見解の表明は,前提として事実の適示を含むとしても,それ自体は証拠などによる存否の証明の対象とはなり得ず意見ないし論評にあたると述べました。
      本判決は,これらの判例にならい,本件報告書の内容はⅩが善管注意義務に違反したという法的な評価であったことから,意見・論評にあたるとした上で,ⅰからⅲの3要件を検討し,違法性を否定したものと解されます。
    2.  考察
      本判決は,第三者委員会の報告書の内容が真実であると認められる場合,報告書中の論評は専ら公益目的であったと認めるのが合理的であったと認めるのが相当であると判断した点で意義があるものと思われます。また,裁判所の判断「④」なお以降の部分(仮にY4がXをY1社の経営陣からの排除等を考えていたとしても,それをもって真実性や公益目的性の認定が覆されるものではない)は控訴審で新たに判断されたもので,注目すべき点かと思われます。
      本件は企業不祥事における調査委員会の実務に影響を及ぼしうる事案であり,現在上告・上告受理申立てがなされているため,最高裁が何らかの判断を示すのか注目されます。

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