改正会社法における平成27年総会における実務対応
2015年02月27日更新
- 第1 はじめに
会社法が平成26年6月に改正され、本年5月1日の施行が予定されている。改正会社法における改正点は、取締役会の監督機能の強化に関する改正、資金調達における企業統治のあり方に関する改正、多重代表訴訟や新キャッシュアウト制度の導入、会社分割等における債権者の保護等多岐にわたっており、実務的な影響も少ないとおもわれる。
今回は、平成27年6月株主総会を迎えるにあたって、株主総会の運営に当たって関係する改正点の概要及び実務的な対応の概要を説明する(本書の性質上、ポイントに絞った解説としている点についてはご留意いただきたい。)。 - 第2 社外取締役を置くことが相当でない理由の開示(弁護士 池田 早織)
- 改正の概要及び適用時期
- 上場会社等(監査役会設置会社のうち公開会社かつ大会社で、有価証券報告書提出会社、以下同じ)について、事業年度末日に社外取締役が存在しない場合には、取締役に「社外取締役を置くことが相当でない理由」についての説明義務が定められ(法327条の2)、事業報告への記載が義務づけられた。また、上場会社等における取締役選任議案において、社外取締役の選任を議案としない場合には、「社外取締役を置くことが相当でない理由」について参考書類への記載が義務付けられた。
- 適用時期
定時株主総会での説明義務については、経過措置がなく、本年6月総会でも適用される。事業報告については、施行日(平成27年5月1日、以下同じ)以後に監査役の監査を受ける事業報告から適用となり、株主総会参考書類への記載義務は、施行日以後に招集の手続(取締役会における招集決定)を開始する株主総会から適用となる。
- 実務上の問題点
- 「社外取締役を置くことが相当でない理由」の具体的内容
「社外取締役を置くことが相当でない理由」の記載については、当該事業年度(参考書類の場合は作成の時点)における各社の事情に応じて記載する必要があり、例えば社外監査役が2名以上あることのみをもって「相当でない理由」とすることはできないとされていることに留意する必要がある。
したがって、「適任者がいない」「社外監査役による監督が十分機能している」など、単に社外取締役を設置しない理由では不十分であり、社外取締役を置くことがかえってその会社にマイナスの影響を及ぼすというような事情の説明が必要である。 - 取締役の「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務
取締役の説明義務は、議題に関する質疑応答の機会を保障するという会議体の一般原則と理解されていることからすれば、株主からの質問があって回答するという方針でも許容されそうであるが、改正法において規定された説明義務は、株主からの説明を待たずに説明する必要があるとされている。
- 「社外取締役を置くことが相当でない理由」の具体的内容
- 改正の概要及び適用時期
- 第3 社外役員の要件に関する改正(弁護士 家永 由佳里)
- 社外役員の社外性要件に関する改正概要
- 要件の厳格化
親会社と兄弟会社における業務執行取締役等でないことが要件に追加されるとともに、会社関係者の近親者でないことが要件に追加された。このため、持株会社をはじめとする親会社の社外役員が子会社の社外役員を兼務することはできなくなる。 - 要件の緩和
過去の勤務状況等については過去10年間と限定された。
- 要件の厳格化
- 適用時期
適用時期は会社毎に判断される。- 施行日に社外役員を置いていない株式会社
原則どおり、施行日以降は改正会社法の社外性判断による。 - 施行日に社外役員を置く株式会社
経過規定(附則4条)により、平成28年6月総会終結までは旧規定による社外性判断でよいとされる。もっとも、実務的には、平成27年6月総会において社外取締役・社外監査役を選任する場合は、改正会社法の要件を満たす人物を選任した方が望ましいと思われる。
- 施行日に社外役員を置いていない株式会社
- 社外役員の社外性要件に関する改正概要
- 第4 監査等委員会設置会社の創設(弁護士 熊谷 善昭 弁護士 南川 克博)
- 監査等委員会設置会社の創設
改正法において、監査等委員会設置会社(法2条11号の2)が創設される。その目的は、経営監督機能を有する社外取締役の活用を促進する点にある。
現行法では、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社(監査等委員会設置会社の創設により、「委員会設置会社」が名称変更される)が存在するが、それぞれの問題点に対応すべく、新たな選択肢として監査等委員会設置会社制度が創設される。 - 監査等委員会設置会社の概要
- 機関構成
業務執行は取締役が担い、それを取締役会が監督する。監査役は置くことができず(法327条4項)、監査等委員会(取締役3名以上で、過半数が社外取締役(法331条6項))が内部統制システムを利用して監査等を行う。当該システム構築のため、会計監査人の設置が義務付けられている(法327条5項)。 - 監査等委員の地位
株主総会で監査等委員以外の取締役とは区別して選任され(法329条2項)、任期は2年である(他の取締役は1年(法332条3項4項))。解任は株主総会特別決議で行う(法344条の2第3項、309条2項7号)。報酬も他の取締役とは別枠で定め、その範囲内で監査等委員取締役の協議で決める(法361条2項3項)。 - 監査等委員会の権限
- 監査・監督権限
各自の監査権限としては、取締役として議決権行使権限を有するほか、従来の監査役・監査委員と同様の調査権限・是正権限(業務調査権、違法行為差止請求権等)を有する。
また、監査等委員会固有の権限として、監査等委員以外の取締役の選解任等や報酬に関する意見陳述権(法342条の2第4項、361条6項)を有するほか、利益相反取引につき事前承認によって、当該取引に関与した取締役の任務懈怠推定が排除される(法423条4項)。 - 重要な業務執行の決定についての取締役への委任
①取締役の過半数が社外取締役である場合には取締役会会議で、②①以外の場合は定款の定めにより、代表取締役に対して重要な業務執行の決定につき委任が可能となる(法399条の13第5項・6項)。
- 監査・監督権限
- 機関構成
- 監査等委員会設置会社への移行
- 手続
定款変更及び監査等委員会設置会社である旨の登記が必要となるほか、定款の効力発生時に取締役・監査役の任期が満了するため、全取締役を新たに選任する必要がある。また、改正に関連する社内組織・規程の整備も行う必要がある(監査に関する組織体制の見直し、取締役会規定の改定、監査役会規定の廃止等)。 - 移行を検討する際のポイント
社外役員選任の負担緩和や、重要な業務執行の決定についての取締役への委任による経営の機動化、取締役会で議決権を有する監査等委員の導入により海外投資家から高評価を得られる可能性等といったメリットが考えられる。一方、監査等委員の人選や、監査体制の見直しの必要性やそのコスト等が移行時の問題点として考えられる。
- 手続
- 監査等委員会設置会社の創設
- 第5 会計監査人の選解任等に関する議案の決定(弁護士 池田 早織)
- 改正の概要
- 会計監査人の選任、解任及び不再任議案について、監査役会が議案の決定権を有することになり(法344条1項、3項)、議案等の内容について監査役が説明責任を負うことになった。また、会計監査人の選任議案に関し、監査役会が当該候補者を候補者とした理由、解任又は不再任議案については、監査役会が議案の内容を決定した理由を株主総会参考書類に記載しなければならないとされた。さらに、会計監査人の報酬等について監査役会が同意した理由を事業報告に記載することとされた。
- 適用時期
議案の決定権、定時総会での説明義務及び株主総会参考書類への記載に関する改正については、施行日前に株主総会の招集手続が開始された場合を除いて、改正法が適用される。なお、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告についてはなお従前の例による旨の経過措置が設けられているため、報酬等について同意した理由の記載は本年6月総会には適用がない。
- 実務上の問題点
- 会計監査人を再任する場合の対応
定時株主総会で別段の決議がなされなければ再任されたものとみなされ(338条2項)、再任には総会での意思決定は不要である。もっとも、実務上は、会計監査人に関する議案の決定権限が監査役会に与えられることから、監査役会として、「当該総会に会計監査人選任等の議案を上程しない」との意思決定を確認しておくことになると思われる。 - 会計監査役の選解任等の議案を決定するための手続
監査役会による会計監査役の選解任等の議案を決定するにあたって、監査役会が経理部等の業務執行ラインに属する部のスタッフを利用すること、取締役が監査役に対して原案を提示することについて不可とする見解も示されている。しかしながら、情報収集や資料作成等を全て監査役または監査役スタッフが担うことは現実的に困難であり、監査役会の最終決定権を侵害するものでない限り、可能だと思われる。 - 事業報告における「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」
会計監査人に関する議案の決定権限が監査役会に与えられたことを踏まえ、事業報告における「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」の内容について検討する必要がある。
- 会計監査人を再任する場合の対応
- 改正の概要
- 第6 責任限定契約の範囲の拡大(法427条1項)(弁護士 家永 由佳里)
- 改正概要
責任限定契約を締結できる者の範囲を業務執行に関与するか否かによって区別することとし、取締役については非業務執行取締役、監査役については常勤監査役を含む監査役をも対象とすることが可能となった。また、対象として拡大された非業務執行取締役及び監査役についての最低責任限度額の係数は2とされている(従前の社外取締役及び社外監査役と同じ)。 - 実務上の問題点
- 社外取締役以外に業務執行を担当しない取締役が存在する場合、改正を受け、社外取締役と同様に、責任限定契約を導入するかどうか検討することになる。仮に、非業務執行取締役を積極的に登用する方針を採用するのであれば、導入する方向となると思われる。
- 社内監査役(常勤監査役)についても、社外監査役と同様に責任限定契約を導入するかを検討することになるが、改正前と利益状況が変わらないのに導入するのかという疑問が拭えない。導入するとしても、常勤監査役への拡大状況を踏まえ、改選期等に合わせて議案とすることが現実的である。
- 平成27年6月総会で導入する場合の手続
- 定款変更議案の株主総会への提出、承認(法466条、309条2項11号)
現行定款の取締役ないし監査役の責任免除の条項について、「社外取締役」を「業務執行取締役等でない取締役」に、「社外監査役」を「監査役」に変更する。 - 選任議案における参考書類への記載
それぞれの選任議案において、責任限定契約の内容の概要を株主総会参考書類に記載することが必要となる(取締役について施行規則74条1項4号、監査役について施行規則76条1項6号)。
- 定款変更議案の株主総会への提出、承認(法466条、309条2項11号)
- 改正概要
- 第7 内部統制システム構築義務に関する改正(弁護士 永原 豪)
- 内部統制システムにおける改正概要
- 現行法下での内部統制システム
現行会社法では、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(いわゆる内部統制システム)を取締役会の決議事項とし、その決議すべき体制について会社法施行規則100条において規定している。改正会社法では、内部システム構築義務について以下の2点において改正がなされている。 - 企業集団による業務の適正を確保するための体制についての会社法での規定
改正法では、取締役会の決議事項として、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」に改正された。これは、現行法において、企業集団における業務の適正を確保する体制について、会社法施行規則(施行規則100条1項5号)において規定されていたものを会社法に規定したものである。 - 監査役の監査体制に関する規定の充実化
会社法施行規則案では、監査役に関する体制についての規定が充実され、「監査役の職務の執行を補助すべき使用人に対する監査役の指示の実効性の確保に関する事項」、「報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取り扱いを受けないことを確保するための体制」、「監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続きその他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項」等が追加されている。 - 内部統制システムの運用状況の開示
会社法施行規則案では、事業報告において、内部統制システムの決議の概要のみならず、その運用状況の概要についての開示が義務付けられた。
- 現行法下での内部統制システム
- 実務な対応
- 内部統制システムに関する会社法改正については、運用状況の概要の開示を除いては経過措置が定められておらず、すべての会社においてその対応が必要となる。
- 企業集団における体制の会社法における規定による影響
企業集団における体制については、その根拠規定が会社法施行規則であるか会社法であるかどうかの相違にすぎず、現行法における規律を変更するものではないといわれているところである。もっとも、企業集団における内部統制システム確保が取締役の義務として会社法に定められたことから、親会社の善管注意義務違反の根拠とされる可能性は否定できない。また、子会社の不祥事などに関連した親会社取締役の責任が認められた裁判例(福岡高裁平成24年4月13日)も存在する。
以上の観点からみた場合、会社法改正を踏まえ、これらの裁判例を踏まえた内部統制システムの見直しが不可欠となる。 - 監査役の監査体制について
新たに定められた監査体制について現時点において規定している企業はほとんどないと思われる。新たに定められた監査体制については、これまでの監査役における監査が実効的なものでなかった原因を踏まえた上で、追加されたものであることに鑑みると、これらの体制について適切な体制を拘置することが必要である。
- 内部統制システムにおける改正概要
- 第8 WEB開示の拡大(弁護士 児山 桂子)
- 改正の概要
事業報告、株主総会参考書類及び計算書類について、これまで認められていなかった事項(事業報告における主要な事業内容、主要な営業所等、主な借入先等、計算書類に関する(連結)株主資本等変動計算書等)についてWEB開示が認められることとなった。なお、新たに開示が求められるようになった「社外取締役を選任することが相当でない理由」についてはWEB開示は認められていない。 - 実務的な対応
- すでにWEB開示を実施している場合
今回の改正を受けて、WEB開示の対象を拡大するかどうかを検討する必要がある。現時点において改正に伴ってWEB開示の対象を拡大させる流れとなるかどうかは不透明である。 - WEB開示を実施していない場合
WEB開示を導入する会社が増加しているという背景を踏まえ、WEB開示を実施するかどうか、実施する場合のその範囲について検討が必要となる。なお、WEB開示を実施した場合でも株主からの求めがある場合には書面で交付できるように準備するのが実務の傾向である。
- すでにWEB開示を実施している場合
- 改正の概要
- 第9 終わりに(会社法セミナーのご案内)
以上述べたとおり定時総会に限ってみても会社法改正の影響は多岐に及んでおり、実務的に対応すべき点が少なくありません。
当事務所では、これらの改正を踏まえ、平成27年3月5日(木)午後1時30分から大手門パインビル2階にて、『会社法セミナー ~会社法改正を踏まえた株主総会運営及び社外取締役選任義務化への対応~』を開催いたします。会場に若干の余裕がございますので興味がおありの方はご出席いただければ幸いです。