徳永・松崎・斉藤法律事務所

非常勤の社外監査役の善管注意義務違反が認められた事例
~セイクレスト事件・大阪高判 H27.5.21~

2015年12月10日更新

  1.  はじめに
    以前,本事件の第一審判決(大阪地判H25.12.26)をご紹介しましたが,控訴審でも非常勤の社外監査役の善管注意義務違反を認める判決が出されましたのでご紹介します。
  2.  事件の概要
    セイクレスト社は,元ジャスダック上場で,平成23年5月に破産した大阪市本社の不動産会社です。
    同社は平成21年3月に債務超過に転落していたところ,同社代表取締役Aは、①調達した資金を合理性が疑わしい使途に使用し,②5億円の山林を20億円と評価して現物出資を受け,③個人コンサルタントBから紹介を受けた会社に多額の約束手形を振り出すなど,上場廃止の回避等の目的から違法・不当な業務執行を続けていました。そして,④平成22年12月には,調達した4億2000万円のうち8000万円について,取締役会決議で決定した使途に反して個人コンサルタントBに交付するなどしました。
    これらの一連の行為について,社外監査役を含む監査役会は,取締役会に意見書を提出し,「違法・不当な行為が継続されるようであれば,辞任等の対応をとる」旨を述べて反対するなど,その都度反対意見は表明していました。
    本件は,同社の破産管財人が,上記④の8000万円の交付に関して,代表取締役の行為が会社に損害を与える違法なものであることを前提に,非常勤の社外監査役X(公認会計士。平成23年3月には辞任)に対して,善管注意義務違反を理由に8000万円の損害賠償請求をした事件です。
    第一審では,社外監査役Xの損害賠償責任を認めました(但し,Xの重過失は否定し,責任限定契約を適用して,賠償額を監査役報酬の2年分である648万円に限定しました)。
  3.  控訴審判決の要旨
    控訴審判決は,代表取締役Aが任務懈怠行為を繰り返していたことを前提に,大要次のように述べて,第一審判決の判断を是認しました。

    •  Xは,取締役会への出席を通じて,Aによる一連の任務懈怠行為の内容を熟知していたことから,取締役会に対し,資金を不当に流出させる行為に対処するための内部統制システムを構築するよう助言・勧告すべき義務があった。
      また,Aが代表取締役として不適格であることは明らかであるから,取締役ら又は取締役会に対し,Aを代表取締役から解職すべきであると助言・勧告すべきであった。
      → 善管注意義務違反あり。
    •  他方で,監査役会は,取締役会において度々疑義を表明し,事実関係の報告を求めるなどしており,特に,多額の約束手形の発行が続けられた際には,「十分な説明がされない場合には,監査役3名は辞任する」旨の申入れを行うなどしていて,一定の限度でその義務を果たしていたため,重大な過失まではない。
      → 責任限定契約の適用あり(賠償額は報酬2年分に限定)。
  4.  検 討
    ある取締役による不祥事の疑いをもった場合に,他の取締役や監査役が善管注意義務違反を問われないために何をすべきかについて,会社法の教科書には,「取締役会において発言する」「弁護士に相談する」「事実を公表すると代表取締役を脅す」「辞任する」などといった選択肢が記載されています。
    但し,例えばライブドア事件(東京地判H21.5.21)では,虚偽記載のある有報の提出前日に辞任した監査役について「架空売上の可能性を認識していた以上,会社の会計処理の適正を確認する義務があり,これを怠った結果,虚偽記載のある有報が提出されるに至った」として任務懈怠(重過失)を認定しており,「辞任する」ことで必ずしも責任を免れるわけではありません。
    この点を考える上で,本事件は,非常に参考になる事例であると思います。

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