徳永・松崎・斉藤法律事務所

役員の責任に関する裁判例のご紹介
平成29年4月20日 大阪高裁判決(控訴審判決)

2017年12月04日更新

  1. 事案の概要

     牧場を経営する会社との間で黒毛和種牛の飼育委託契約を締結したが,同社が破産したため,損害を被ったとして,顧客が同社またはその関連会社の取締役・監査役ら22名,同社の関連会社3社を含め22名を被告として損害賠償を求めた。
     第一審においては,取締役・監査役各1名について請求認容。本判決は控訴審判決である。

  2. 第一審と控訴審の判断の内容について
    1. 一審の判断
       契約者の員数に見合う数量の和牛が不足する事態に陥っていたのに,同事実を被告となっていない同社の代表取締役,常務取締役ほか一部の者しか知り得なかった等の判示の事実関係の下においては,同社の業務監査をしていれば,同事実を認識し,または認識し得たと認められる同社の監査役及び取締役各1名に対する関係で理由があるとして,取締役に対しては全部,監査役に対しては一部認容した。
    2. 控訴審の判断
      • 取締役について
         会社を代表して同契約を締結していた同社の代表取締役らの経営陣に対してその違法な勧誘をしないように会社の業務執行を管理,統制すべき業務上の義務を果たすことが極めて困難であって,その職務執行に悪意はもとより,重大な過失があったということもできない。
      • 監査役について
         その就任時の会社法等の規制から監査業務の対象が会計監査に限定されるべき関係にあって,業務監査はその対象でなく,会計監査については任務懈怠があったとは認められない。
  3. 役員が任務懈怠により第三者に損害を与えた場合,会社法429条1項により責任を負う。

     本件控訴審においては,違法な勧誘がなされていたことを前提に,取締役は有限会社(当時)の取締役として法律違反の営業を改めるための行動をとる職務上の義務を負っていたとしつつ,経営陣3名が本件違法な勧誘に基づく契約を含む制度運営のあり方に口を出すことを一切許さないとの方針で会社経営をしていたこと,実際に取締役らの一部は繁殖牛不足の事実を知らなかったこと,社長が有限会社(当時)の持分全部を有しており,社内最高レベルの意思決定が可能な絶対権限者であって,上記方針の妨げになりそうな役員や社員をいつでも本部から遠ざけることができた,という特殊な事情を認定して,取締役の責任を否定した。
     また,監査役について,当時は監査権限が会計監査に限定されていたことを理由に責任を否定した。
    取締役らの責任は否定されたものの,本件は上記のような特殊事情が認められたことが背景にあり,原則として,違法行為を知り得たのであればこれを止める行為を行わなければ責任を負うことに留意すべきかと思われる。
    役員は会社の業務上,違法行為がなされていないか十分な資料を求めるなどしてチェックし,違法行為を疑う相当な事情がある場合は,これを止める行為を行う必要がある。

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