徳永・松崎・斉藤法律事務所

株主総会決議の取消請求が認容された事例
~東京地裁平成31年3月8日判決~

2019年08月06日更新

  1.  はじめに
     6月を終え,株主総会シーズンは一段落を見せたところですが,今年の3月に,上場企業の株主総会決議の取消請求が認容された判決が出ましたので,ご紹介させていただきます。
     なお,事実関係はかなり詳細・複雑であるため,紙幅の関係上簡略化・抜粋しております。
  2.  事案の概要
     上場企業であるA社の定時総会の開会後に,取締役選任議案に関する会社提案(候補者7名)に対抗する形で一部候補者が異なる修正動議(候補者6名)が提案され,総会会場にて投票をすることになりました。
     投票の際には,議場は閉鎖され,投票用紙に基づき議決権が行使されることとなりましたが,集計作業に時間がかかったため,一度総会を中断し,A社の本社で総会は再開されることになりました。
     同日午後6時に総会は再開となりましたが,その際に議長交代の決議がなされ,交代した議長により,修正動議が可決された旨の発言がなされました。
     修正動議で取締役候補者から外れた(つまり本件総会をもって取締役を解任された)Xにより,本件総会決議の不存在や取消し等の請求がなされました。
  3.  本件の争点と裁判所の判断
    1. 株主である企業の担当者の行為について

      ア 争点
       A社の株主であるB銀行及びC生命は,それぞれ担当者を職務代行者として出席させていたところ,投票に際して,B銀行担当者は投票用紙を提出せず,C生命担当者は傍聴に来ているだけと説明し,何も記載せずに投票用紙を渡しました。これについて,A社は最終的に棄権として取り扱ったため,かかる取扱いが争点となりました。
       なお,いずれも,総会前に会社提案に賛成する議決権行使書面が提出されていました。

      イ 裁判所の判断
       裁判所は,概要以下の点を述べ,A社の扱い(棄権)が正しいと判断しました。

      • 書面による議決権行使の制度は,株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるための便宜を図る制度であり,職務代行者として出席した以上,その時点で事前の書面による議決行使は撤回された
      • (欠席として扱うべきというXの主張に対して)投票時に議場を閉鎖した以上,株主はその際に退場して欠席できたのであり,退場しなかった株主を欠席扱いとすることはできない
    2. 法人等の代表者による議決権行使について

      ア 争点
       修正動議の提案者であるDは,A社持株会の代表者でもあったところ,持株会が保有する株式について,修正動議に賛成として議決権行使をして,A社もそのまま取り扱ったため,かかる議決権行使の有効性が争点となりました。
       なお,持株会は,総会前に会社提案に賛成する電子投票を行っていました。

      イ 裁判所の判断
       裁判所は概要以下の点を述べ,当該議決権行使について無効と判断しました。

      • 法人の代表者等が修正動議について議決権を行使する際,原案に関する指示があれば,そこから合理的に導き出せる内容により議決権行使をする権限が与えられている
      • 持株会の会員は,事前の内部手続により,会社提案に賛成する旨の指示をしていた
      • 議案の内容を踏まえると,上記指示から合理的に導き出せる内容は,「修正動議への反対」であるから,Dの議決権行使は権限の逸脱である
      • 事実の経緯からすると,A社はDによる持株会の議決権行使が,権限の濫用であることについて悪意であった(認識していた)ため,無効である
    3.  結論
       上記(2)の点について持株会の議決権行使を有効とした前提での本件決議は瑕疵があり,不存在であるとまではいえないが取消事由があるとして,本件総会決議を取り消す旨の判決がなされました。
    4.  さいごに
       本件判決は論点が多岐にわたる上に,なかなか通常の株主総会運営では想定し難いシチュエーションではありますが,事前に議決権行使がなされた株主の担当者や代表者が出席した際にどう取り扱うか(傍聴者として出席株主と明確に区別する等)という点を検討する上で,参考になるものと思われます。

     本件は控訴がなされており,高裁での判断が注目されます。

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