ガバナンス体制強化の成果
2021年04月23日更新
- ガバナンス体制強化の始まり
皆さまご存じのとおり,2005年(平成17年)の会社法改正により,大会社は内部統制システムの体制を整備することが義務付けられることとなりました(現行会社法だと,362条4項6号,5項)。この規定の制定も一つの契機となって,コンプライアンス委員会の設定,内部通報制度の確立,コンプラアイアンスマニュアル,懲戒規定等の整備,研修の実施,ポスターの掲載等が行われました。 - 体制強化の成果は?
さて,そのような体制強化の成果は上がっているのでしょうか。この点についての私の意見ですが,確実に上がっていると考えております。肌感覚ではなく,根拠を示せ!と言われるのは当然でしょう。私が一つの根拠として掲げるのは,訴訟件数の推移です。本当に大雑把な数字ですが,2005年1年間に提訴された民事裁判の件数は約95万件でしたが,14年後の2019年は約59万件となっており,約4割減少しております。このように訴訟の件数が減少した理由・要因には様々なものが考えられますが,企業活動という観点からみますと,ガバナンス体制が強化されたことが一つの要因になっているものと思われます。提訴に対する最大の引き金として考えられるのは,違法な・あるいは著しく不当な企業活動による部外者への損害の発生というものであるところ,ガバナンス体制の強化によって,このような違法性のある活動が抑制されたことが訴訟を減少させた一つの原因となっているのではないでしょうか。 - 企業内弁護士の活動
ガバナンス体制を支える一つの柱として企業内弁護士の存在があるかと思います。企業内弁護士の数ですが,2005年には全国で120名だったのが,2019年には2,620名となり,約22倍に増加しております。法科大学院を卒業し司法研修を受けて法律家としての資格を有している弁護士を身近に置くことによって,専門的アドバイスを受けることができるというのが,企業内弁護士の存在意義ということになります。他方で,そのような的確なアドバイスをすることができる弁護士を探し出したうえで,雇用するためのコストも必要であり,両者のバランスをどのように取るのかについては各企業の判断ということになります。 - ガチンコ勝負の訴訟は増加?
訴訟の件数に関するデータを掲げたついでに,訴訟事件で弁護士が付いた事件数の推移も見てみましょう。これもザッとした数字ですが,2005年が約5,800件,2019年が約19,600件であり,約3倍以上増加しております。弁護士が付く事件というのは,それなりに重たい事件であり,企業活動でみると,違法性が明確なものではなく違法か否か争われる事件,すなわち,原告側も違法性が明白でないため弁護士に委任し,被告企業側も適正な企業活動であることを立証するために弁護士に委任する事件と思われます。そうすると,ガバナンス体制を強化しても,一定程度の訴訟事件は残存することとなります。このようなやっかいな訴訟への対応ですが,ガバナンス体制が整備されておれば,被告企業側の言い分を十分に説明し,説明の根拠となる資料も容易に入手できるはずです。今後とも,さらなる体制の強化が望まれるところです。