徳永・松崎・斉藤法律事務所

株主総会の議決権行使書面の行使期限に関する法令違反
~乾汽船事件・東京地判R3.4.8~

2021年12月08日更新

熊谷 善昭 弁護士

  1. 事件の概要
    1.  乾汽船株式会社(東証1部上場)の令和2年6月株主総会について,同社の大株主が株主総会決議取消しを求めた事案です。
    2.  争点は多岐にわたりますが,「招集通知の発送日ないし議決権行使書面の行使期限に関する法令違反」の主張について,事実経過は以下のとおりです。
      1. 令和2年6月4日(木)
        招集通知等一式の発送
      2. 令和2年6月18日(木)午後5時
        議決権行使書面の行使期限
      3. 令和2年6月19日(金)午前10時
        定時株主総会の開催
    3.  原告の大株主は,「乾汽船の営業時間は午後5時20分までであるから,議決権行使書面の行使期限について6月18日午後5時までとしたことは,『特定の時』(会社法施行規則63条3号ロ)を定めたことになる。従って,乾汽船は6月3日までに招集通知を発送しなければならなかった」として,招集手続の法令違反を主張しました。
  2. 東京地裁令和3年4月8日判決の要旨
    1. 結論
      「法令違反がある」としたものの,決議取消請求は棄却。
    2. 理由
      1.  乾汽船はホームページ上で午前9時から午後5時20分までが営業時間であるとしており,「営業時間の終了時」(会社法施行規則69条)は午後5時20分と認めるのが相当である。
      2.  そうすると,それよりも早い午後5時を議決権行使書面の行使期限としたことは,「特定の時」(会社法施行規則63条3号ロ)を定めたものであると認められる。
      3.  従って,議決権行使書面の発送日と総会日との間に15日間を設けなかった招集手続は,議決権行使書面の行使期限に関する法令(会社法298条1項5号,会社法施行規則63条3号ロ)に違反する。
      4.  上記のとおり法令違反があるものの,行使期限は午後5時から午後5時20分の20分間伸長されるに過ぎないこと等から,瑕疵の程度は重大とはいえず,上記違反を理由とする決議取消請求は棄却する。
  3. 検討
    1.  招集通知は株主総会の2週間前までに発しなければならず,株主総会の日と招集通知の発送日との間に14日間を置く必要があります(本件では,招集通知を発送した6月4日と株主総会を開催した6月19日の間にはちょうど14日間があり,この点では問題ありません)。
    2.  そして,議決権行使書面の行使期限は,原則として「株主総会の前日の営業時間の終了時」であるものの,会社はこれとは別の「特定の時」をもって行使期限とすることもできます。
       ただし,その「特定の時」は,招集通知の発送日から2週間を経過した日以後の時に限られるとされています(会社法298条1項5号,会社法施行規則63条3号ロ)ので,「特定の時」を定める場合は,更にもう1日前(本件では6月3日)に招集通知等を発送しなければならないことになります。
    3.  本件において,乾汽船が,議決権行使書面の行使期限について,「6月18日午後5時20分」としておけば「株主総会の前日の営業時間の終了時」として何の問題も無かったのですが,20分早い「午後5時」としていたために,上記⑵の「特定の時」を定めたものと解釈され,上記の行使期限の設定に法令違反があると判断されました。
       結論として決議取消は免れましたが,大変珍しい裁判例であり,実務的にも間違え易い点であるため,ご紹介させていただきました。

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