徳永・松崎・斉藤法律事務所

株主総会資料の電子提供制度適用下での株主総会を控えて
~ フルセット・デリバリーの採用についての私見 ~

2023年02月09日更新

永原 豪 弁護士

  1. はじめに
     皆様ご承知のとおり、令和元年改正会社法によって導入された株主総会資料の電子提供制度(法325条の2以下、以下「電子提供制度」といいます。)が本年9月1日に施行されました。電子提供制度は、これまで株主に対して送付(提供)していた書面(株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類、事業報告、連結計算書類、以下これらの書面をまとめて「参考書類等」といいます。)に記載されていた事項を、自社のホームページなどのウェブサイトに掲載し(電子提供措置、法325条の2、規則95条の2)、株主に対して、そのウェブサイトのURL等を書面の招集通知(以下「アクセス通知」といいます。)で通知することで、参考書類等を交付、又は提供することが不要となる制度です。上場会社では、電子提供制度の採用が強制されているため、施行日から6か月経過後の来年3月1日以降に開始される株主総会においては電子提供措置を講じる必要があります。
    電子提供制度は、これまで書面を前提とした株主総会の運営を劇的に変容させ、紙面をという制約がなくなることによる、新しい取り組みが可能となると思われます。
    すでに各社において検討が進んでいると思いますが、電子提供制度適用下の株主総会について実務的に検討すべき点について私見を述べたいと思います。
  2. 株主に送付する書面について
    1.  電子提供制度では、株主に送付する書面は原則としてアクセス通知のみであり、その記載事項は①日時・場所、②目的事項(議題)、③書面による議決権行使ができる場合はその旨、④電磁的方法で議決権行使ができる場合はその旨、⑤電子提供措置を取っている旨、⑥電子的措置を取っているウェブサイトのURL等、に限定されています(法325条の4第2項、規則95条の3第1項第1号)。また、法的には義務付けられていませんが、議決権行使書面については、従前どおり書面によって交付することが多いと想定されています。加えて、電子提供措置を講じられた情報を書面にて交付することを希望した株主に対しては、電子提供措置事項を記載した書面についてもあわせて送付する必要があります(法325条の5第2項)。
    2.  アクセス通知には議題の内容(議案)が記載されないため、株主は、電子提供措置が講じられたウェブサイトにアクセスする必要があります。電子提供制度下における当然の前提ではありますが、株主からのクレームを回避する、個人株主による議決権行使を促す等の観点から、任意に株主総会に関する情報を記載した任意の書面を送付するかどうかが検討されています。 
       この点、これまでと同じ、すべての株主に対して、株主総会参考書類等のすべてを書面により交付するフルセット・デリバリーの採用を検討する企業も相当数存在するようであり(三菱UFJ信託銀行委託会社へのアンケート結果によれば、38㌫の会社がフルセット・デリバリーを想定しているとのことです。)、一定数の企業においてフルセット・デリバリーが採用されるようです。 
       しかしながら、このような対応は株主総会に関する情報を電子提供し、書面での交付を例外的なものとする電子提供制度の趣旨に反することになるように思います。また、電子提供制度下においても、従前同様、株主総会参考書類等に記載する事項を印刷して交付することは、紙資源の節約による環境負荷の低減という観点からも疑問であり、各社のサスティナビリティへの方針とも矛盾しかねないと思います。フルセット・デリバリーを好意的に捉える株主が一方で、印刷した書類の交付について疑問を抱く株主も多いことにも留意が必要だと思います。
       個人的には、紙面という制約がなくなった電子提供制度の利点を最大限に生かし、これまでの慣行にとらわれず、株主へのわかりやすさや提供する情報の充実化等を検討すべきであり、かかる対応が法の趣旨に適うと考えます。
       新しい制度に基づく株主総会を迎えるということで、混乱を最小限に抑えるという観点から、フルセット・デリバリーを採用することを否定するものではありませんが、その採用期間は限定的にするのが望ましいと考えます。なお、一般株主からの議決権行使を促すという観点からは、フルセット・デリバリーとするのではなく、議案の内容についてのみ印刷して書面を交付するという対応等も検討の余地があると思います。
  3. その他実務的な留意事項
     株主に送付する書面をどうするかという点以外にも、①電子提供措置の開示時期やその具体的な内容(工夫を含む。)、②書面請求をした株主に対する電子提供措置事項記載書面の記載事項をどうするのか(電子提供事項のうちどの部分を省略するのか)、③電子提供措置の中断に備えた実務対応、④電子提供制度下における株主総会招集取締役会での決議事項の拡大、④株主総会当日の実務対応(シナリオの修正等)等について、会社において検討が必要になります。
  4. さいごに
     弊所では、これまで培った株主総会指導に関する知見と経験を活かし、改正法の内容を踏まえた実務対応についてアドバイスできるような体制を講じております。お悩みの事項がございましたら遠慮なくご相談ください。

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