徳永・松崎・斉藤法律事務所

子会社取締役の解任の正当な理由の判断における親会社取締役としての適格性
~Shinwa Wise Holdings事件・東京高判R4.9.7~

2023年12月27日更新

熊谷 善昭 弁護士

  1.  事件の概要
    1.  Shinwa Wise Holdings株式会社(JASDAQ上場・「SWH社」)は,複数の子会社を保有してエネルギー事業・美術品オークション事業その他の事業を営む持株会社です。
    2.  原告Xは,SWH社の取締役と,同社の完全子会社で美術品オークション事業を営む被告Y社の代表取締役を兼務していましたが,SWH社の元代表取締役であるA氏との経営権争いに敗れ,A氏の代表取締役復帰と同時に,SWH社の取締役及びY社の取締役を解任されました。
    3.  会社法339条により,取締役は株主総会の決議によっていつでも解任され得るものの,解任について「正当な理由」がなければ,解任による損害の賠償を請求できることとされています。
        本件は,Xが「Y社取締役の解任には正当な理由がない」として,Y社に対して,取締役の残任期間約17ヶ月の報酬相当額1700万円余りにつき損害賠償を請求した事件です。
    4.  Y社が主張した「解任の正当な理由」は,「業績の悪化」「リスク管理の失敗」など多岐にわたりますが,このうち「SWH社の取締役として不適格であること」を主張した部分に関する判示についてご紹介したいと思います。
  2.  東京高裁令和4年9月7日判決の要旨
    1.  結論
      Xの請求認容(Y社取締役の解任に「正当な理由」なし)。
    2.  理由
      1.  SWH社グループにおいては,グループ全体で戦略を達成することを目標としていたのであり,SWH社の役員が子会社の役員を兼任することとなっていたことも考えれば,XもSWH社の経営方針に沿ってY社の経営を行うことが求められていたものと認められ,そうであればY社取締役としての適格性を検討するに当たっても,SWH社取締役としての適格性の有無を考慮するのが相当である。
      2.  Xが,株主に対して,A氏について「放漫経営による大きな損失」「お手盛り同様の多額な報酬受領と乱脈に近い経費の費消」などと一方的に非難するような書面を送付する等の行動をしたことは,いわゆる経営権争いが生じている渦中にあっては,SWH社の社会的な信用等を必要以上に毀損しかねないものとも評される余地がないではなく,Xについて,SWH社の取締役としての適格性のみならず,Y社の取締役としての適格性についても疑義が生じたものと判断されても,直ちに不合理とまではいい難い。
      3.  しかしながら,上記の行動は,SWH社の当時の代表取締役,Xを含む3名の取締役及び3名の監査役が連名で行ったものであって,Xが率先したなどの事情もうかがわれないことを考慮すれば,上記の行動をもって直ちにY社取締役の解任について正当な理由があると認めるには足りない。
  3.  検討
    1.  原審(東京地裁令和4年3月14日判決)でも,本件判決と同様にXの主張が認められていましたが,原審は「同一の企業グループに属する親会社とその完全子会社という関係にあるとはいえ,両社は別の会社であり,SWH社とY社とでは取締役としての職務内容等に差異があるというべきであるから,このような差異を捨象してSWH社の取締役として不適格であるから直ちにY社の取締役として不適格であるということはできない」として,「SWH社の取締役として不適格であること」を考慮すること自体について,より否定的な判断でした。
        本件判決も,「親会社取締役として不適格であること」が直ちに「子会社取締役として不適格であること」を基礎付けると判断したものではなく,あくまでも「本件の事情(SWH社の役員が子会社の役員を兼任することとなっていたことなど)のもとでは」という事例判断と捉えるべきと思われます。
    2.  本件のSWH社のように,子会社の代表取締役が親会社の取締役・執行役員を兼務する仕組みとなっている企業も多いものと思われます。
        グループ経営の観点からは,子会社の代表取締役が親会社の経営陣とグループ経営方針等に関して対立したような場合には,親会社の経営陣として,親会社の取締役・執行役員だけでなく子会社の代表取締役についても解任したいと判断する場合はあると思いますが,本件のように争いとなった場合には,「親会社の取締役として不適格であるからといって,直ちに子会社の取締役として不適格であると評価されるわけではない(正当な理由がないとして残任期間の報酬額を補償しなければならない可能性がある)」ことは,ご留意いただければと存じます。

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