徳永・松崎・斉藤法律事務所

旧アルプス電気・アルパイン株式交換無効等請求事件
(東京高判R5.9.28
原審東京地判R4.3.24)

2024年04月03日更新

家永 由佳里 弁護士

  1.  事案の概要
    1.  旧アルプス電気社とアルパイン社は,それぞれ上場会社であり,旧アルプス電気はアルパイン社の40%以上の株式を有していた。
    2.  平成29年3月,旧アルプス電気社は,アルパイン社(対象会社)を完全子会社とする株式交換契約を提案し,対象会社は第三者委員会を立ち上げた。
    3.  平成29年7月26日,第三者委員会は,①目的の合理性や条件面の公正性,②少数株主の利益保護,③協議,検討および交渉の過程で特別利害関係人が影響を与えたことを推認させる事実がないことを踏まえ,本件株式交換は対象会社の少数株主にとって不利益ではないとする答申書を提出した。
    4.  同日,第三者算定機関が,本件株式交換比率のレンジについて,市場株式法で1:0.51~1:0.53,類似会社比較法で1:0.46~1:0.62,DCF法で1:0.50~1:0.85となる旨の株式交換算定書を提出し,本件株式交換比率が対象会社の支配株主等を除く少数株主にとって財務的見地から公正である旨のフェアネス・オピニオンを提出した。
    5.  平成29年7月27日,両社は効力発生日を平成31年1月1日とし,株式交換比率を1:0.68とする株式交換契約を締結し,公表した。
    6.  平成30年1月30日までに,旧アルプス電気社と対象会社はそれぞれ業績予想を上方修正した。このような状況から,平成30年2月2日,第一次答申書の意見に変更があるかを諮問事項として,第二次第三者委員会(委員は第一次と同じ)が設置された。
    7.  平成30年2月27日,第二次第三者委員会は,第一次答申書における意見の内容に変更はない旨答申書を提出した。
    8.  平成30年7月20日,対象会社は第二次第三者委員会に社外の独立した公認会計士・弁護士を加えた第三次第三者委員会を設置した。
    9.  平成30年9月26日,改めて依頼した第三者算定機関が,株式交換比率について,市場株式法では1:0.74~1:0.78,類似会社比較法では1:0.53~1:0.73,DCF法では1:0.48~1:0.91と算定した資料を提出した。
    10.  同日,第三次第三者委員会は,本件株式交換の条件は公正であり,公正な手続きを通じて対象会社の少数株主の利益に対する配慮がなされているとして,少数株主にとって不利益になるものではないとする答申書を提出した。
    11.  平成30年12月5日,対象会社株主総会において本件株式交換が73.3%の賛成により承認可決された。
    12.  対象会社の株主Xらは,平成30年12月12日付で株式買取請求を行い,対象会社は平成31年1月10日付で買取請求日の市場価格の終値である1株1660円を支払う旨通知した。
    13.  平成31年1月1日,本件株式交換の効力が発生した。同月29日,旧アルプス電気社は,連結業績予想を下方修正し,対象会社は車載情報機器事業の第1四半期~第3四半期の営業利益に係る実績が前年同期比32.2%増加した旨公表した。
    14.  平成31年3月4日,Xらが,株式交換の無効等を主張して提訴。
  2.  東京高裁令和5年9月28日判決について
    1.  結論として,Xらの請求棄却。
    2.  争点はいくつかありますが,①株式交換議案の対象会社株主総会における承認決議が「著しく不当な決議」にあたり無効となるか,②親会社の業績下方修正を事前備置書面に記載しなかったことが更新義務違反となるか,に関する判断についてご紹介します。
    3.  ① 本件株式交換議案の株主総会承認決議は,会社法831条1項3号の「著しく不当な決議」にはあたらない。
        株主総会特別決議に取消事由がある場合は,当該株式交換の手続きには重大な法令違反があり,株式交換の無効事由となる。
        株式交換完全親会社となる会社が完全子会社となる会社の株式の相当数を保有しているような場合は,当事会社間および当該会社とその少数株主との間に利益相反関係が存在する。
        意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,一般に公正と認められる手続により株式交換の効力が発生した場合には,株式交換比率が公正なものであるか否かについては,原則として,株主及び取締役の判断を尊重すべきである。
        当該株主総会において,特別の利害関係を有する者が議決権を行使していたとしても,特段の事情がない限り,会社法831条1項3号の「著しく不当な決議」にはあたらない。
        本件株主総会決議については株主の合理的判断が妨げられると認めるに足りる特段の事情があるとはいえない。
    4.  ② 旧アルプス電気社の単体業績予想下方修正について開示しなかったことは,事前備置書面等の更新義務違反にはあたらない。
        業績予想の数値は株式交換比率を算出する上で重要な指標であるものの,本件株式交換比率は単年度の業績予想のみを基礎として算出しているわけではない。
        電子部品事業単体としての下落幅が15%ということは連結業績ベースではマイナス幅はより小さくなると推認され,適時開示基準で開示が必要となる30%を参考とすると大幅に下回るので,修正の必要性があったとは認められない。
  3.  検討
    1.  ①の論点について,特別の資本関係がある場合の株式交換に関する判断の枠組みについては,独立性に問題があり,支配する会社が影響力を行使し有利な契約条件を設定して,他の少数株主の利益を害する恐れがありますので,様々な措置を講ずる必要があります。
        本判決は,独立した委員から構成される第三者委員会を設け,独立機関による株式交換比率の算定,取締役会から支配会社出身の役員等を排除する等,独立性担保措置を講じて契約条件を決定した場合は,取締役が会社や株主の利益にかなう契約を締結できることが期待でき,株主は開示された情報を踏まえて判断できるため,その判断は原則として尊重されるべきであるとしています。これは最高裁平成28年7月1日決定と整合しており,妥当な判断といえます。
    2.  本件株式交換契約は,契約締結日から効力発生日まで約1年5か月と長期間にわたったため,契約締結後に,第三者委員会が2回立ち上げられております。また,株式交換比率レンジも再度算定し,株式比率レンジは初回の算定値よりも上がっています。
        現実的には,株式交換効力発生日までの期間が長期間となる場合は,その間の業績が大幅に変わり企業価値に変動が生じ,株式交換比率レンジに大きな影響を与える可能性があります。そうすると,再度検討が必要となり独立性担保措置等を取るコストが大きくなりますし,株式交換比率を見直さない場合は無効訴訟リスクが増大し,あまり望ましくないように思われます。
    3.  しかしながら,経営統合には時間がかかることも想定されますので,効力発生日まで長期間となる場合は,独立性担保措置に加え,株式交換比率レンジの効力発生日に近い日での再算定,その評価を踏まえ少数株主の納得できるプレミアムを上乗せした株式交換比率の再検討をすることも必要となると思われます。
        その場合,当初の株式交換契約に,株式交換比率の再検討条項を入れておき,再度実効的な交渉ができるようにしておくことなども考えられます。
    4.  本判決は,②の論点について,事前備置書類等の業績修正開示について,適時開示基準の30%を基準としておりますので,基本的には適時開示基準に基づいて開示を判断することになります。
        とはいえ,業績予想との差異がかなり30%に近い場合,その他の事情を踏まえて,株式交換無効リスクを減少させるため,積極的にこれを開示するかについて検討を要することもあり得ると思われます。

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