徳永・松崎・斉藤法律事務所

スジャータめいらく株式買取価格決定申立事件 (最決令和5年10月26日)

2024年05月16日更新

藤田 晃 弁護士

  1.  事案の概要
    1.  スジャータめいらく株式会社(以下「S社」という。)の株主であるXが,Y社を吸収合併存続株式会社,S社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)についての会社法785条2項所定の株主(以下「反対株主」という。)であるとして,S社に対し,株式を公正な価格で買い取ることを請求したが,協議が調わないため,価格の決定の申立てをした事案です。
    2.  令和2年10月15日,S社はY社との間で,Y社を吸収合併存続株式会社,S社を吸収合併消滅株式会社,効力発生日を同年12月1日として本件吸収合併をする旨の吸収合併契約を締結した。
    3.  S社は,Y社との吸収合併契約の承認(以下「本件議案」という。)を決議事項とする臨時株主総会(以下「本件総会」という。)を令和2年11月13日に開催することとし,S社の代表取締役は,同月9日,S社の株式を有するXに対し,招集通知を発するとともに,本件総会にX自身が出席しない場合には,上記招集通知に同封された委任状用紙(以下「本件委任状用紙」という。)に賛否を記載するなどして委任状を作成し,これを返送するよう議決権の代理行使を勧誘した。
    4.  本件委任状用紙には,宛先として「S社御中」と印字されており,これに続いて,「委任状」という表題の下に「私は,.....を代理人と定め下記の権限を委任いたします。」,「令和2年11月13日開催の貴社臨時株主総会及びその継続会または延会に出席して下記の議案につき私の指示(〇印で表示)にしたがって,議決権を行使すること。ただし,議案に対して賛否の表示のない場合及び原案に対して修正案または動議が提出された場合は,いずれも白紙委任いたします。」とそれぞれ印字されており,更にその下に「賛」又は「否」のいずれかに〇印を付けて本件議案に対する賛否を記載する欄が設けられていた。
    5.  Xは,令和2年11月10日,上記勧誘に応じ,本件委任状用紙を用いて,上記点線の部分にS社代表取締役の氏名を記載するとともに,賛否欄の「否」に〇印を付け,その欄外に,本件吸収合併の内容が不明であるなどして,賛否表明ができない旨の付記(以下「本件付記」という。)をして委任状(以下「本件委任状」という。)を作成し,これをS社に対して返送した。
    6.  令和2年11月13日,本件総会において本件の合併契約を承認する旨の決議がされたところ,上記決議が行われるに当たり,S社代表取締役はXの代理人として本件議案に反対する旨の議決権の行使をした。
    7.  Xは,会社法785条2項所定の株主(以下「反対株主」という)であるとして,令和2年11月30日までに,S社に対し,Xの有する全株式を公正な価格で買い取ることを請求した。
    8.  Xは,令和3年1月20日,株式買取価格決定の申立てをした。
    9.  原原審(名古屋地決令和3年10月21日)及び原審(名古屋高決令和4年3月30日)は,㋐本件委任状において,本件賛否欄の「否」に〇印を付けた部分は代理人となるべき者に対する指示であってS社に向けられたものであるということはできず,㋑本件委任状の宛先がS社とされているのは,代理権を証明する書面が株式会社に提出されなければならないとされていること(会社法310条1項)からすると不自然でもなく,㋒本件付記があることからすると,本件吸収合併に反対する旨のXの意思が本件委任状に表明されているということもできないため,XがS社に対して本件委任状を送付したことは,反対通知に当たらず,Xは反対株主ではないから,本件申立ては不適法であるとして,これを却下すべきものとした。
  2.  最高裁令和5年10月26日決定の要旨
    1.  結論として,原決定を破棄し,原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻す。
    2.  会社法785条1項,2項1号イが,吸収合併等における反対株主として株式買取請求をするためには,株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定していることの趣旨は,消滅株式会社等に対し,反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ,当該議案を可決させるための対策を講じたり,当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにある。
    3.  株主が株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても,当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して,吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには,消滅株式会社等において,上記見込みを認識するとともに,上記機会が与えられているといってよいから,上記委任状の送付は,反対通知に当たる。
    4.  本件についてみると,本件委任状は,S社が,Xに対し,宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し,Xが,これに応じて,賛否欄には「否」に〇印を記載をするなどして,S社に対して返送したものである。そうすると,本件委任状の送付は,S社に対して,吸収合併に反対する旨のXの意思が表明されていたことは明らか。なお,本件付記は,その記載内容等からすると,本件議案に反対する理由を記載したものとみるべきであり,Xの意思が表明されていたとの上記判断を左右するものではない。
    5.  XがS社に対して本件委任状を送付したことは,反対通知に当たると解するのが相当である。
  3.  検討
    1.  本決定では,株主が株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても,「当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して,吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるとき」は,上記送付は,反対通知に当たることを示しました。これまで,学説上は,議決権代理行使の委任状の送付は,「否」と記載して会社宛てに返送しても,反対通知に当たらないと解する見解が有力であったところ,本決定では,かかる考え方を否定しました。
    2.  また,本件は,吸収合併の消滅株式会社の株主が株式買取請求権を行使しようとしたものですが,それ以外の場面においても,株式買取請求権が行使される場合には,本決定の考え方が妥当するものと思われます。
    3.  上記の通り,本決定では,反対通知といえるためには,反対する旨の意思が消滅会社等に表明されていることが必要とされているところ,本件では,委任状の宛名が,会社であるものの,仮に,宛先が代表者個人であったとしても,会社に対して返送された場合,会社は株主の反対の意思を把握することができるため,事前の反対通知に該当することはあり得るものと思われます。また,本決定の考え方を前提とすると,賛否欄が空欄の委任状の返送であっても,委任状の記載全体を総合すれば,消滅株式会社等に充てた反対の意思が表明されているとして,反対通知に該当することも否定できません。
    4.  本決定が出たことにより,委任状の送付も反対通知となり得ることが明らかになり,株式買取請求における実務において,参考になるものと思われます。

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