取締役の責任とは
~パロマ工業 東京地裁判決を受けて~
2010年07月12日更新
- 5月11日,パロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故に関して,東京地裁がパロマ工業元社長らに対して業務上過失致死罪の成立を認めて執行猶予付きの有罪判決を下しました。この件は,大きく報道されましたのでご存知の方も多いと思います。個人的には,経営陣(取締役)にかなり重い義務を認めるもので,経営陣(取締役)に酷な判決ではないかというのが第一印象だったのですが,皆様はいかがお感じになられたでしょうか?今回はこの判決について若干コメントしたいと思います。
- 業務上過失致傷罪は刑法第211条に定められており,「業務上必要な注意を怠」った者が処罰の対象となります。起訴の対象となっている事故は,そもそもパロマ工業社製品自体の欠陥に起因するものではなく,取引業者の不正改造に起因するものとされているにもかかわらず,取締役にこのような注意義務違反が認められるのかという点が最大の疑問です。メーカーが製造し,販売した製品が,修理業者の不当行為によって死傷事故が発生した場合,製造会社の取締役に注意義務違反があるとすれば,取締役の注意義務の範囲は無限に広がりかねないからです。
本判決では,パロマ工業社製品の修理業者が容易に不正改造できるような安全装置自体が事故発生に一定の寄与をしたと判断しているようですが(瑕疵がないとは判断していない),いかなる事実を認定したうえで,このような判断をしているのか気になるところです。 - また,業務上過失致死傷罪は過失犯ですので,結果回避義務の前提として予見可能性が必要となりますが,この点についても,いかなる事実関係を持って予見可能性を肯定したのかも気になるところです。1985年から2001年にかけて12件の同種事故が発生していたことを認識していたということを重視しているようですが,予見可能性は具体的な予見可能性でなければならないと解されており,当該事故が発生しているという事実を認識していることだけで予見可能性があるというのであれば若干疑問です。
- なお,本件判決は,パロマ工業社が消費者に注意を促す努力をしていない点を重視している点が注目されます。すなわち,具体的な製品の欠陥等の不祥事が発生し,一般消費者に対する損害が発生が具体的に予見される場合には,単に当該製品の流通を停止したり,改善措置を講じたりするのみならず,被害拡大のために一定の対応(テレビCM等)が必要であると考えているということであり,不祥事対応として参考になります。
- 本件判決には,上記のとおり,その判断に疑問点もありますので,てっきり控訴されると思っていたのですが,元社長らが控訴せずに確定してしまいました。
いずれにせよ,本件判決を精査する必要がありますが,その結果については別の機会に述べたいと思います。ただ,取締役の責任についての裁判所の要求水準が厳しくなっているということだけは間違いないようです。