法廷百景
23条照会制度
2019年01月19日更新
- 弁護士が訴訟や事件を処理するに当たっては,様々な資料(証拠)を収集し,事実関係を確認した上で,法律的にはどのように考えられるかを検討することとなります。その意味で,事実認定をするための資料は非常に重要なものですが,時には依頼者の方の手持ち資料では足りないことがあります。このような場合に備えて,法律上,いくつかの証拠収集手続(訴訟における調査嘱託,文書送付嘱託等)が準備されておりますが,そのうちのひとつに,弁護士法23条の2に規定される弁護士会照会(23条照会とも呼ばれます)があります。
- 23条照会は,「弁護士が受任する事件を処理するに当たって必要な事項を,公私の団体に対して,弁護士会を通じて照会を行うもの」であり,事件が訴訟の段階に至っていなくとも利用可能な点に特徴があります。また,法律相談への回答や法律意見の表明といったものであっても,具体的な事件についてのものであれば利用可能であり,その意味でも使い勝手の良い制度といえます。
他方,弁護士会が主体とされており,弁護士会という公的な機関による社会的意義を有する制度という側面もあることから,申出に際しては,弁護士会による必要性や相当性にかかる審査が行われます。ちなみに,私はこの審査を行う「福岡県弁護士会調査室」にここ数年所属しております。審査においては,「どのような理由でこの照会が必要なのか」,「照会を求める理由と照会事項は整合しているか」等を確認し,不明確な場合は申出弁護士に補正を求め,場合によっては取下げを促すなどの対応をしております。 - さて,このような23条照会ですが,時おり聞かれるのが「照会に回答する義務はあるのか」という点です。この点,弁護士法の条文には,回答義務を明示した文言はありませんし,回答しなかった場合のペナルティ(罰則)を定めた規定も存在しません。しかしながら,平成28年10月18日に出された最高裁判所の判決においては,「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」と述べられており,原則としては回答義務があり,回答を拒否するには正当な理由が必要であると理解されているところです(では,どのような場合に「正当な理由」といえるかが難しい問題となりますが,ケースバイケースで判断せざるを得ないように思います。)。
- 今回紹介した23条照会の制度は,真実の発見を通じて社会正義の実現を図る弁護士に与えられた重要な権限であるとともに(厳密には弁護士「会」ですが),具体的な事件処理においては有用なツールとなります。弁護士としては,ご依頼を頂いた際にはこのような資料収集の可否も含めて検討して参ります。