徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
裁判はなぜ長引くか? 判決の緻密さ

2019年12月05日更新

  1.  長くかかるもの代名詞の筆頭は,なんといっても裁判でしょう。裁判官,弁護士その他の法曹関係者は「時間軸」を持っていないのでは?と疑いたくなる方も少なくないかもしれません。では,なぜ裁判が長引くのでしょうか? その一つの原因として考えられるのは,「判決」が緻密すぎるという点にあると思います。
  2.  裁判は,その手続からみると,「主張」と「立証」に分かれます。まず,相争う当事者が「主張」をします。主張とは,言いたいことを言い合うことで,書面に記載して裁判官に提出して読んでもらいます。言い分,すなわち主張を出し合った後,「立証」に入ります。立証とは,言い分が正当であることを証拠により説明する手続のことで,関係する証拠書類を裁判官に見てもらったり,目撃者を裁判所に連れて来て裁判官の面前で証言してもらったりします。「論より証拠」という格言がありますが,「論」=主張,「証拠」=立証という関係になります。そして,主張と立証が終われば,裁判官がどちらの当事者の言い分が正しいのかの判断を示しますが,その結論が記載された書類が「判決」です。
  3.  では,判決はどのように書かれるのでしょうか。判決は,4つの部分に分かれています。第一章が「主文」と呼ばれる部分で,どちらの当事者の言い分が正しいかについての結論だけが記載されます。第二章が「争いのない事実」と呼ばれる部分で,双方の当事者が争っていない事実関係が記載されています。第三章が「争点」と呼ばれる部分で,言い分が対立する点について,それぞれの当事者がどんな言い分を述べたのかが記載されます。第四章が「判断」と呼ばれる部分で,第三章の争点に記載された対立する言い分について,なぜ第一章の主文記載の結論になったのかの理由・経緯が記載されます。この判決のどの部分が「緻密」なのでしょうか。私の見立てだと,緻密な順番に並べると,第四章の判断>第三章の争点>第二章の争いのない事実>第一章の主文,となります。
  4.  最も緻密なのは,第四章の「判断」の部分です。判決の要(かなめ)の部分となります。そうすると,完璧な理論構成,合理的な理由付け,流ちょうな言い回しを追求することとなります。第三章の「争点」の部分は,双方の言い分をまとめただけで,そんなに気合を入れて書く必要もない部分だと思うのですが,裁判官は結構詳細にまとめます。第二章の「争いのない事実」の部分は,当事者双方の共通認識となっている事実をまとめるだけであり,わざわざ判決で指摘するまでもないところでしょうが,第三章以下を導くための序章としての意義があり,結構丁寧に記載されます。
  5.  判決がこのように緻密になっているため,判決の作成にも時間がかかり,当事者の主張や立証も,ニュチャニュチャ,ベタベタと濃密になって時間を要し,結果として裁判が長引くことになってきます。
  6.  第四章の「判断」の部分を思い切って簡素化し,第三章の「争点」と第四章の「争いのない事実」の部分を断腸の思いで削除すれば,随分裁判に要する時間も短縮するのではないでしょうか。と思いつつ,今,ある事件で,相手方の提出した第10準備書面と甲100号証を眺めて,「前回がネバネバ的反論だけだったので,今回はネチネチにヌルヌルを加えてそこにトロミを付けて反論するか」と作戦を練っているところです。

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