徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
借地非訟事件の鑑定委員

2020年12月16日更新

恩穗井 達也 弁護士

  1.  先般,借地非訟事件に関する鑑定委員会の鑑定委員を務めるという(おそらく)珍しい経験をしましたので,報告します。なお,特定を避けるため事案に関する記載は脚色等を加えていますのでご了承ください。
  2.  まず借地非訟事件の鑑定委員会とは何かという点ですが,借地借家法に基づく借地非訟事件(借地条件の変更の申立て,増改築の制限がある場合の増改築許可の申立てなどです。)については,裁判所が特に必要がないと認める場合を除き,裁判をするに当たって,鑑定委員会の意見を聴かなければならないとされています(法第17条第6項など)。
    鑑定委員会のメンバーは,裁判所が3人以上を指定するとされているところ(法第47条),実務上は,弁護士1名,不動産鑑定士1名,建築士などの有識者1名の3名で構成する場合が多いとされています。鑑定委員会は,借地非訟の審理に関して裁判所のリクエストに応じて意見を述べるものですが,裁判所はかかる意見に拘束されるものではありません。ただし,実際上は鑑定委員会の意見が相当程度尊重されており,決定事案の多くは鑑定委員会の意見に沿ったものとなっているようです。
  3.  かかる鑑定委員会の打診が私のもとにやってまいりました。聞くところによると,借地非訟事件は東京などではそれなりの件数があるものの,福岡ではあまり事案が多くはなく過去の事例も少ないとのことでしたが,そのようなレアケースに当たったことに自分の引きの強さ(?)を感じます。本件の鑑定委員会は,私(弁護士)のほか,不動産鑑定士1名,有識者1名の3名で構成されることが決まりました。なお,鑑定委員会については,弁護士である鑑定委員が委員会を主宰するのが通例のようであり,裁判所との連絡調整,委員会(他の委員との打合せ)の開催,当事者への必要事項の照会等はすべて私の方で行うこととなり,それなりに大変な業務でした。
  4.  鑑定委員会の意見をまとめるに当たっては,何よりも現地調査が重要です。本件借地及び借地上の建物の現況を確認するため,鑑定委員会において複数回にわたって現地調査に向かいました。現地調査といっても,私に不動産の見方について専門知識があるわけではありませんので,同行した不動産鑑定士の先生に彼是と質問しながら,建物の劣化具合,賃貸不動産としての評価等の必要な事項を確認していきます。また,本件土地建物だけではなく,その付近周囲についても鑑定委員会のメンバーで歩き回りながら,周辺の環境調査を行いました。さらに,借地契約当時から現在までに環境が変化しているかどうか,事情の変更があるかどうか等を確認するため,不動産鑑定士の先生にお願いして,借地契約当時(数十年前)の付近の状況に関する資料を頑張って集めてもらいました(ちなみに,この過去調査において自分が小さかった当時の福岡の記憶が思い出されたりして,個人的には面白い経験でした。)。
  5.  これらの調査結果を踏まえて,鑑定委員会としての意見をまとめ上げました。実際に意見書を作成するに当たっては,大筋の結論では意見が合致していたものの,細かい点でそれぞれのメンバーの意見の相違があり,これらを擦り合わせて意見書として完成させるのはなかなか大変な作業でしたが,最終的には全員一致で意見書を完成させることができました。
  6.  弁護士をしていると,日常業務以外にも本件のように通常はあまり取り扱わない業務に出会うことがありますが,このような案件は初心に立ち返って丁寧に物事を進めていくことの重要性を思い出させてくれるものです。今後も,新鮮な気持ちを忘れずに業務に取り組んでいければよいと感じた案件でした。

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