徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
事実認定と書証の重要性

2021年04月23日更新

家永 由佳里 弁護士

 民事裁判では,ある事実を法律にあてはめた場合に得られる効果を判決で宣言します。民事裁判においてはある事実の有無を認定する事実認定の段階と,認定された(あるいはされなかった)事実について法律を適用するという2つの段階があります。

 ある事実を立証する責任を負う側は原則決まっており(立証責任の転換が問題となる場合もありますが),立証責任を負う側が立証に成功するか失敗するかが事実認定の鍵を握ります。

 証拠には書証と人証があります。書証には契約書や報告書,メモ書き,最近ではSNSの書き込みのプリントアウトなど,様々なものがあり,その作成経緯や内容によって証明する力は変わってきますが,書証の有無で事実認定の成否が決まる場合は多くあります。裁判官の心証は,書証によってほぼ形成されるということも言われています。

 書証に記載されている事実については認定される可能性が高いので,契約書など書証となり得るものを作ることには,紛争を予防する効力もあります。ただ,法律には原則があれば必ず例外があるもので,「特段の事情」が認められる場合は書証の内容が認定されないことももちろんあります(最判昭和45年11月26日など)。作成者が自由な意思で作成したと認められない場合などもそうです。書面を作成するときには,その作成状況には十分配慮して,無理やり書かせたという反論が出ないようにすべきでしょう。

 人証は,法廷で尋問により人の記憶を陳述しこれを証拠とするものですが,人の記憶はあやふやなものです。時間がたてばたつほど記憶は薄れます。書証が作成時点の状況を表すのに対し,記憶はその記憶を陳述する時点のものですから,時間が経過すれば変容している可能性も出てきます。陳述書は書面化されているので書証ではありますが,人証と同程度の証明力といえます。

 書証がなくても人証やその他の間接事実により,「ある事実」が認められる場合もありますが,裁判ではそれなりに労力を要しますし,認められないリスクは段違いに大きくなります。契約書などにたった一言書いていれば,事実が認められていたかもしれないという事案があるのは確かです。

 裁判にはスピードが求められており,事実認定にかける時間は相対的に少なくなり,書証の重要性はますます大きくなっていくと思われます。取引にあたって書面を作成することは当然として,特に重要な取り決めについては,はっきりと明確に記載しておくことをお勧めします。

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