徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
本人訴訟

2021年08月16日更新

  1.  時折,企業の方から,訴訟を提起したいが,請求額が小さいので,弁護士に代理人を依頼せず,会社自身で対応したいとのご相談を受けることがあります。
    日本の民事訴訟では,弁護士や司法書士といった専門職に依頼せず,当事者本人で訴訟を進めることが認められており,こういった訴訟のことを「本人訴訟」といいます。
     本人訴訟には,原告のみが本人のケース,被告が本人のケース,原告被告ともに本人のケースがあります。
     では,企業等の法人が本人訴訟を行う場合,誰が裁判所に行って訴訟活動を行うのでしょうか。
     法人のために訴訟活動を行うことができるのは,代表取締役や理事長といった法人の代表者になります。
     しかし,小規模の会社でない限り,代表者が裁判所に出廷し,書面や証拠を提出したり,発言等をしたりするのは現実的ではありません。
     では,法務担当者が訴訟活動を行うことはできないのでしょうか。
     この点については,原則として,代表権のない法務担当者が訴訟活動を行うことはできません(ただし,会社法上の「支配人」等,一切の裁判上の権限を有する者は除きます)。
     しかし,簡易裁判所に係属する事件は,例外的に,裁判所の許可を得ることによって,弁護士でない者を訴訟代理人とすることができるとされています(民事訴訟法54条1項ただし書)。これは,簡易裁判所が取り扱う事件は,訴額が140万円以下と僅少で,軽微な事件が比較的多いことから,弁護士代理の原則の例外として認められています。したがって,簡易裁判所に係属する事件では,法務担当者が裁判所の許可を得て,訴訟代理人となり,訴訟活動を行うことが可能です。
  2.  では,本人訴訟(法務担当者等,専門職以外の者を代理人にする訴訟も含みます)の事件はどのくらいあるのでしょうか。
     令和2年度の司法統計を基に算定したところ,地方裁判所が第一審として取り扱った事件のうち,53%が本人訴訟であり,ほぼ半数が本人訴訟という結果になっています。
     また,簡易裁判所の事件では,94%が本人訴訟であり,当事者双方が弁護士等を代理人とした事件はわずか6%ほどです。
     なお,地方裁判所と簡易裁判所のいずれにおいても,売買代金請求や貸金請求等の金銭を目的とする事件において本人訴訟率が突出して高い結果になっています。
     さらに,簡易裁判所の事件のうち,60万円以下の金銭債権を請求する少額訴訟に限定すると,99.7%が本人訴訟であり,代理人を付ける方が例外的という結果になっています。
     このように,日本の民事訴訟では,訴額が低く,かつ,金銭債権を目的とする比較的軽微な内容の事件で,特に本人訴訟の割合が高くなっています。
  3.  本人訴訟のメリットは,なんといっても弁護士等に支払う費用がかからないことです。請求金額が低い事件では,弁護士等に依頼した場合,費用倒れになるケースもありますので,そのような事案では本人訴訟によるメリットが大きいといえます。
     では,逆にデメリットは何でしょうか。
     古いデータですが,2010年の統計によれば,「原告の勝率」は,原告と被告双方に弁護士がついた場合は67.3%,原告と被告双方が本人訴訟である場合は67%でしたが,原告が本人訴訟で被告にのみ弁護士がついた場合は32.4%,原告にのみ弁護士がついて被告が本人訴訟の場合は91.2%ということでした(司法研修所『本人訴訟に関する実証的研究』参照)。
     事案は様々ですので,単純に比較はできませんが,弁護士がついた方が勝訴できる可能性が上がるといえます。
     また,裁判は専門性が高いため,適切に訴訟遂行するのに手間がかかるということがあります。
     主張書面を作成する際は,民法や会社法などの実体法の規定に則って必要な事実を主張立証する必要がありますし,相手方の主張を整理して的確に反論する必要があります。
     また,書面や証拠の提出,期日における対応については,民事訴訟法などの手続法に則った対応が必要になります。
     さらに,証人尋問は,民事訴訟法上のルールに則って,必要となる証言を効果的に聞き出す必要があります。
  4.  以上からしますと,訴訟については,基本的には弁護士に依頼いただく方が,敗訴リスクも減り,手間もかからないと思います。ただ,少額訴訟など,訴額が低く,かつ,比較的軽微な内容の事案で,事実関係に争いがなく,客観的な証拠が揃っている場合には,会社自身で対応されるというご判断もあるかと思います。
    訴訟行為を委任いただかない案件であっても,裁判で提出する書面の確認や手続についてのアドバイス等はさせていただきますので,お気軽にご相談いただければと思います。

一覧へ戻る

ページトップへ戻る