徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
裁判手続のIT化の現状と今後について

2022年06月06日更新

永原 豪 弁護士

  1.  民事裁判IT化の現状(ウェブ会議による争点整理)
    日本の裁判手続は各国に比べてIT化が遅れていると指摘されて久しいところですが,2018年6月に裁判手続等のIT化の推進が閣議決定され,2020年2月から福岡地裁では現行法の下でウェブ会議を利用した争点整理の運用が開始されています。その後,2020年12月には全国の地方裁判所本庁での運用が開始され,今年2022年5月からは福岡地裁小倉支部でも導入される予定となっています。すでに導入されて2年を経過していること,新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から利用がすすんだこともあり,ウェブ会議による争点整理に同席された依頼者の皆さまも多いのではないでしょうか。 
    現行法の制約がありますので,訴状・準備書面等の主張書面をオンライン提出等は実現できていませんが,従前の電話会議に比べると,裁判官や相手方の表情が見えなるため期日の雰囲気が伝わりやすいという印象です。
  2.  民事裁判書類電子提出システム(mints)の運用開始
    また,2022年4月からは民事裁判書類電子提供システム(mints)の運用が一部の地裁で開始され,夏又は秋ごろには知財高裁,東京地裁及び大阪地裁の一部の部で運用が開始される予定です。 
    このmintsは最高裁が新たに開発させたシステムであり,訴訟当事者は,準備書面や書証の写し,証拠説明書等をアップロードすることで提出することができ,相手方当事者はmintsから相手方が提出した書類等をダウンロードが可能となります。mintsでは,裁判所に書類を持参したりファックスすることなく,24時間オンラインで提出することが可能となりますので,書類関係の提出という面ではかなり便利になります。また,mintsに提出された書類等についてはいつでもどこでもダウンロードすることで確認することが可能ですので,膨大な訴訟資料を常に持参するという手間も省けることになります。 
    法改正がなされていないため,裁判の正式な書類や証拠については,mintsにアップロードされたものを裁判所において印刷して,記録化されたものが正式な書類等になるという制約はありますが,法改正下での民事裁判のオンライン化のイメージにかなり近くなると思います。 
    現時点では福岡地裁での運用開始は予定されていませんが,そう遠くない時期に運用が開始されるものと思われます。
  3.  民事訴訟法の改正に向けて  
    現行民事訴訟法は裁判手続のIT化を想定していないため,IT化を実現するためには民事訴訟法の改正が必要となり,2022年3月に民事裁判手続のIT化を可能とする民事訴訟法等の一部を改正する法律案が提出されております。この改正案ではウェブ会議で口頭弁論期日を開催することやウェブ会議による尋問も可能となり,訴訟記録の電子化についても定められています。この改正法案が成立し,施行されると裁判手続のIT化がさらに進展していくことになると思います。
    新しい手続に対応できるか不安もありますが,新しい手続により裁判手続が利用しやすい制度になることを期待したいと思います。

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