徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
放置自動車への対応

2022年08月29日更新

恩穗井 達也 弁護士

  1.  最近,複数の顧問先からのご相談で,「会社の敷地(駐車場など)に所有者不明の放置自動車があるが,どう対応すればよいか」といったものがありましたので,これまで当職が対応した案件を踏まえ,放置自動車への対応について説明いたします。
  2.  前提として,自力救済は原則として禁止されていますので(最高裁昭和40年12月7日判決など),自分の所有する敷地内であるからといって,放置自動車を所有者に無断で処分したりすることはできません。勝手に処分等をしてしまうと,後日に所有者が現れた場合,同人より逆に損害賠償請求をされるリスクを負うこととなりますし(もちろん,土地に無断で駐車されたことに関する損害賠償請求を当方から行うことも可能ですが,そうであるとしても,無断処分について当方が損害賠償責任を負わないことを意味するものではありません。),刑法上の器物損壊罪等に問われる可能性も否定できません。かかるリスクを負うことなく撤去を実現するためには,きちんと手順を踏む必要があります。なお,放置車両が盗難車である場合は,警察に相談すべきことになりますので,以下では,そのようなケースではないことを前提に説明します。
  3.  まずは,自動車の所有者を特定する必要があります。所有者を確認するには,運輸支局において登録事項等証明書を取得します。通常は当該証明書を取得するにはナンバーのほか車台番号等の情報も必要になるのですが,私有地に放置された自動車の場合,これに代えて,放置自動車であることに関する資料(写真や説明図など)を提出することにより,ナンバーのみにより取得が可能となっています(なお,普通自動車ではなく軽自動車の場合は,運輸支局ではなく,軽自動車検査協会に問い合わせることとなります。)。
  4.  所有者を特定することができれば,任意で撤去要請を検討します。実際には自動車を放置するような所有者ですので,任意の撤去に応じてもらえないことも多いのですが,例えば,駐車料金相当額の損害賠償請求を合わせて行うことで,すみやかに撤去することが所有者にとっても損害(賠償額)の拡大防止に資することを理解させることにより(場合によっては,損害賠償額の減免や分割払いを認めることにより),任意の撤去が実現することもあります。実際に当職が行った案件でも,交渉によってこの段階で任意の撤去が実現したケースはいくつかあります。後述する訴訟等をすることなく撤去が実現できれば,コストを抑えた形で撤去が実現することになります。
  5.  任意での撤去が期待できない(所有者と連絡がつかない場合も含みます。)場合,所有者に対して訴訟を提起し,判決を得て,当該判決をもとに強制執行を行うこととなります。通常,このような場合に相手方が出廷してくることはほとんどありませんので(当職のこれまでの経験上では1回もありません。),基本的に1回の期日で結審します。そして,判決を取得した後,裁判所に改めて強制執行を申立て,裁判所(執行官)の執行によって撤去を実現するという流れになります。
     なお,所有者が所在不明となっているケースもありますが,その場合でも撤去を諦める必要はありません。所在調査(住民票の取得,弁護士会照会などに加えて,現地調査を行うことが多いです。)をした上で,それでも所在が分からない場合は,公示送達という制度を使って,上記の裁判手続を進めることが可能です。
  6.  以上のような撤去に要する期間についてはケースによって様々ですが,強制執行まで必要であった案件でも,おおよそ半年程度で撤去が実現できていることが多い印象です。ただ,ケースバイケースであり,もちろん事案によっても適切な手順が変わってくることもありますので,放置自動車に関してお困りのことがあれば,ご遠慮なく当事務所にご相談ください。

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