徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
所有者不明土地等に関する民法改正

2023年02月09日更新

池田 早織 弁護士

  1.  近年、所有者が特定できない又は所在が不明といった土地・建物が増加し、深刻な社会問題となっています。こうした所有者不明土地等の利用の円滑化を主な目的として、令和3年4月21日に改正民法が成立し、来年4月1日より施行されます。
    そこで、所在等不明土地等に関する主な改正内容について、概要をご紹介します。
  2.  所有者不明土地等の管理制度の見直し
    (問題の所在)
    所有者を特定できない又は所在不明の土地・建物について、公共事業の用地取得や空き家の管理等が必要な場合、どうするか。
    (現行)
    ① 所有者を特定できない土地・建物
    財産管理制度なし
    ② 所有者が所在不明の土地・建物
    裁判所に、不在者の財産全般を管理する「不在者財産管理人」(民法25条1  項)等の選任を申し立てる。
    ⇒土地・建物以外の財産を調査して管理する必要がある。
    申立人が負担する予納金も高額。
    (改正後)
    裁判所に、①②の土地・建物のみに特化して管理を行う「所在者不明土地管理人」「所在者不明建物管理人」の選任を申し立てる(新民法264条の2~264条の8)。
  3.  所在等不明共有者がいる場合の共有制度の見直し
    1.  所在等不明共有者がいる場合の変更・管理
      (問題の所在)
      共有の土地・建物について、共有者の一部が特定できない又は所在不明の場合、㋐土地・建物を第三者に賃貸したり(管理行為)、㋑建物を増改築したり(変更行為)する場合はどうするか。
      (現行)
      ㋐ 管理行為には、共有者の持分の過半数の同意が必要(民法252条)。
      所在等不明共有者以外の共有者の持分が過半数に及ばない場合、決定できない。
      ㋑ 変更行為には、共有者全員の同意が必要(民法251条)。
      所在等不明共有者がいる場合、決定できない。
      (改正後)
      共有者は、裁判所に、以下の裁判を申し立てる(新民法251条2項、252項2項)。
      ㋐ 所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定できる旨の裁判
      ㋑ 所有者等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えることができる旨の裁判
    2.  所在等不明共有者の持分の取得・譲渡
      (問題の所在)
      共有の土地・建物について、共有者の一部が特定できない又は所在不明の場合に、ⓐ所在等不明共有者から持分を取得する場合又はⓑ土地・建物全体を第三者に売却する場合はどうするか。
      (現行)
      ⓐ 所在等不明共有者から持分を取得する場合
      ・裁判所に共有物分割請求を申し立てる(民法258条)
      ⇒共有者全員を当事者として訴えを提起する必要がある。
      ・不在者財産管理人の選任を申し立てた上で、持分の譲渡を受ける
      ⇒土地・建物以外の財産を調査して管理する必要がある。申立人が負担する予納金も高額。
      ⓑ 土地・建物全体を売却する場合
      ⓐにより所在等不明共有者の持分を他の共有者に移転した上で、共有物全体を売却する。
      ⇒共有者に持分を一旦移転するのは迂遠。手間や費用を要する。
      (改正後)
      ⓐ 所在等不明共有者から持分を取得する場合
      裁判所に「所在等不明共有者の持分を他の共有者に取得させる」旨の裁判を申し立てる(新民法262条の2)。
      なお、所在等不明共有者は、持分を取得した共有者に対する時価相当額請求権を取得する(実際には供託金から支払いを受ける)。
      ⓑ 土地・建物全体を売却する場合
      裁判所に、申立てをした共有者に対し「所在等不明共有者の不動産の持分を第三者に譲渡する権限」を付与する旨の裁判を申し立てる(新民法262条の3)。
      所在等不明共有者は、譲渡権限を行使した共有者に対する「不動産の時価相当額のうち持分に応じた額の支払請求権」を取得する(実際には供託金から支払いを受ける)。
  4.  相隣関係規定の見直し
    隣地を使用する必要がある場合等で、隣地所有者が所在不明の場合、現行法の相隣関係の規定(209条、233条等)では対応が困難であったが、改正法では、以下のような対応が可能となる。
    ・隣地の使用
    土地の所有者が、境界付近に建物を建てる際や越境した枝を切り取る際に隣地を使用したい場合に、予め通知することが困難なときは、隣地の使用を開始した後(隣地所有者の所在不明である場合は所在が判明した後)、遅滞なく通知することをもって足りる(新民法209条3項)。
    ・越境した竹木の枝の切取り
    越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させるのが原則であるが、竹木の所有者の所在等が不明な場合は、枝を自ら切り取ることができる(同233条3項)。

一覧へ戻る

ページトップへ戻る