徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
「虎に翼」と法服と私

2024年12月18日更新

家永 由佳里 弁護士

 7月に入り,毎日うだるような暑さですが,珍しく脱落せずにNHKの朝ドラを観ています。「虎に翼」の主人公は,日本女性初の弁護士で,新憲法の下,女性も裁判官になれる道が開け,裁判官になります。
第二次世界大戦前の法廷の描写では,裁判官だけでなく,弁護士も法服を着ていましたが,現代の法廷では裁判官と書記官しか着ていません。
あの黒い法服は,以前はシルク製で某百貨店に注文していたましが,今は入札で落札した某世界的日本ブランド製で,素材はポリエステルだと聞いたことがあります。

 戦前は,裁判所構成法(明治23年2月10日公布)第114条により,判事検事,書記官,弁護士は公開法廷において一定の制服を着用するよう定められ,共通の帽子も着用することになっていました。生地は黒で,刺繍の色について判事は深紫,検事は深緋,書記は深緑,弁護士は白でした。刺繍の模様は,判検事は唐草模様に桐花,書記は首元のみ唐草模様,弁護士は唐草模様のみでした。桐花は官吏の標章であったためとのことです。立ち襟の襟元は,学ランを思い起こさせます。刺繍は美しく,手仕事であれば,仕立てるまでに大変手間がかかったことでしょう。

 昭和22年に裁判所構成法は廃止され,これらの法服も廃止となり,以後弁護士と検察官に法服はありません。初の女性弁護士は昭和15年に誕生しておりますので,法服を着ることができた女性弁護士は,この7年間に登録した者のみ,数名と思われます。ちょっとうらやましいです。
そして,裁判官は,「裁判官の制服に関する規定」(昭和24年4月1日最高裁判所規則第5号)により,「裁判官は,法廷において,制服を着用するものとする。」と定められ,今も裁判官は法服の着用が義務とされています。書記官については「裁判所書記官の職服について」(平成4年7月29日付最高裁判所事務総長通達)により,同じようにガウンのような黒い法服を着用することになっています。
なお,法廷以外では着る義務はないので,進行協議等で公開法廷以外の部屋で手続きを行う際は着ておられません。

 ここ数年は夏の暑さがひどくなりましたので,服の上にガウンのように羽織る法服は暑そうです。クールビズに逆行している気がするし,美容院で服の上から羽織るシャカシャカしたガウンを思い起こします。あれは暑いですが,髪の毛等が付着するのを防ぐという目的のためには理にかなっているので着用せざるを得ません。
法服はどういう目的で着用が義務づけられたのでしょうか。
平成30年5月9日の国会での質問に対し,最高裁総務局長の答弁では「法廷が厳粛かつ秩序正しく手続きが行われなければならない場所であることから,公正さと人を裁く者の職責の厳しさをあらわすとともに,他方では裁判官みずからそのような立場にあることを自覚させるものとして規定されている」とのことです。
弁護士にもこれらの目的は概ね当てはまるでしょうから,法服があってもおかしくありません(英国では弁護士も法服に加え刑事事件ではかつらをかぶります!)。この暑さで法服・・戦後,弁護士に法服が義務化されなかったことに胸をなでおろしつつ,主人公の仕事と家庭の両立に暗雲が漂ってきた「虎に翼」を鑑賞する77年後の猛暑の日なのでした。

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