徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
ウェブ会議システムを利用した証人尋問

2025年04月25日更新

恩穗井 達也 弁護士

  1.  証人尋問。皆さま,実際の法廷ではなくともドラマなどでその光景を見たことがあるのではないでしょうか。また,前回の法廷百景でも,「証人尋問の心得」として,証人尋問の全体的な流れを解説しておりました。このように訴訟の山場ともいえる証人尋問ですが,先日,証人尋問をウェブ会議方式で実施するという,珍しい(私にとっては初めての)経験をしましたので,報告いたします。
  2.  そもそも証人尋問において,裁判所は,証言の内容(文言)のみならず,証人の態度,印象をも踏まえてその信用性を判断するものであり,このことから証人尋問は裁判官の面前で実施されるのが原則となります。しかしながら,一定の場合には例外も認められており,そのうち一つがウェブ会議システムを利用した尋問です(ちなみに,民事訴訟法では正式には「映像等の送受信による通話の方法による尋問」と表記されており,ウェブ会議システムのみならず,テレビ会議システム等も含みます。)。民事訴訟法204条では,「証人が遠隔の地に居住するとき」など一定の要件を満たす場合に,この方法による尋問が認められています。
    本件では,当方申請の証人について,県外の遠隔地に居住しており,くわえて諸事情により訴訟が係属している裁判所まで出廷することが困難な事情がありました。そのため,証人には地元の裁判所までは何とか来てもらって,その裁判所とウェブ会議システムを繋ぐことによって尋問を実施しました。
  3.  尋問は,Microsoft Teamsを用いて裁判所同士のパソコンを繋ぐ形で行われました。
    当日,こちらの法廷には,法廷内に大きなモニターが一つ準備され,そちらに画面が映し出されました。こちら側のメインのパソコンは裁判所書記官が操作し,傍聴席の中央最前列に設置されたカメラによって,代理人席がそれぞれ映されていました。また,裁判長の前にもパソコンが置かれており,裁判長はそちらのパソコンで参加する形でした。
    証人側は,地元の裁判所職員の立会いのもと,にラウンドテーブル法廷(会議室のような部屋)に在廷し,パソコンの前に証人が座る形でした。なお,証人側では,万が一何らかの不測の事態が生じた場合に備えて,当方の代理人1名と会社の方に同席してもらいましたが,かかる同席に際しては,同席者が隠れて証人に指示等をする等の余計な疑いを招かないように,すべての同席者が常に画面にその姿が映る形で座るようにしていただきました(その前提で同席に了解をもらいました。)。
  4.  いざ尋問を始めようとした冒頭,トラブルが生じました。こちらの声が相手方に届いていないという,ウェブ会議でありがちなトラブルです。最近は,訴訟期日がウェブ会議により実施されることも普通のこととなっており,裁判所もその運用には慣れているのですが,法廷で尋問を行うことは裁判所にとっても珍しいことだったようで,単に機材(マイク)の配線がきちんとできていなかったことが原因でした。15分くらい裁判所職員が悪戦苦闘した後,無事に接続が確認でき,ようやく尋問がスタートしました。
    ただ,実際に尋問を行ってみると,思っていた以上に違和感なくやり取りを行うことができました。この点,証人尋問という形式自体は初めてであったものの,いまやウェブ会議によって質疑を行うことは日常となっています。そのため,証人がその場にいないという特殊性を踏まえる必要はあるものの,それ以外は,通常の証人尋問とそれほど大きく変わるものではなかったという印象です。証人尋問では,書面を示しながら質問をすることもあるのですが,当方の代理人1名が同席していたため,こちらもスムーズでした(仮に証人1人だった場合,あらかじめコピーを現地の裁判所に送付しておく,あるいは,画面に表示させるといった対応になるのでしょうか。この点は,よく分かりませんでした。)。結局,本件で想定外だったのは,冒頭の機材トラブルくらいでした。
  5.  証人尋問のウェブ会議システムによる実施は,令和4年の改正民事訴訟法により,その要件等が緩和されています(改正法の該当部分は令和8年5月までには施行される予定ですが,原稿執筆時点で具体的な施行時期は未定です。)。裁判のIT化が進み,訴訟の様子も大きく変わってきておりますが,その流れに取り残されないよう,日々精進していこうと思います。

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