定年後再雇用者に対して定年前とは異なる職種を提示することの適法性
~トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決・労経速2300号)~
2017年04月25日更新
- 事案の概要
Y社では,平成24年10月2日~平成25年10月1日までの定年退職者(60歳)について,再雇用選考基準を満たした者は定年後再雇用者就業規則に基づいてスキルドパートナー(契約期間は最長5年間)として再雇用し,同基準を満たさない者はパートタイマー就業規則に基づくパートタイマー(契約期間は1年間で契約更新はない)として雇用するという制度を採用していた。Xは平成25年7月1日に定年を迎えたが,再雇用選考基準を満たさなかったためY社からスキルドパートナーとして再雇用されることはなく,Y社からパートタイマーとして清掃業務等での雇用を提示された。
このためXがY社に対し,スキルドパートナーでの再雇用契約上の地位確認と賃金支払い及び損害賠償等を求めて提訴した。 - 裁判所の判断
- 第一審判決(名古屋地裁平成28年1月7日判決)
Xが再雇用者選考基準を満たしておらず,Y社がスキルドパートナーとして再雇用しなかったことは違法ではないと判断するとともに,Y社はパートタイマーとしての再雇用を提示したにも拘らずXがこれを拒否したのであるから,パートタイマーとして再雇用しなかったことも違法ではないとしてXの訴えを全面的に退けた。 - 控訴審判決
控訴審判決では,第1審判決と同様に,Y社がXをスキルドパートナーとして再雇用しなかったことは違法ではないとして,Xのスキルドパートナーとしての地位確認及び賃金支払い請求については認めなかったが,パートタイマーとしての清掃業務等を提示したことは,違法行為に該当するとして,パートタイマーとして雇用されていた場合に得られたであろう賃金額相当額(約130万円)の慰謝料の支払いを命じた。
控訴審判決は,「改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社(Y社)は,控訴人(X)に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属する等性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の性質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠く等通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されない」とした上で,Y社がXに提示した業務内容は,Xのこれまでの職種に属するものとは全く異なった別個の職種に属する性質のものであると認められ,Xがいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられない等通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものであると判断した。
- 第一審判決(名古屋地裁平成28年1月7日判決)
- コメント
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では,60歳未満の定年の定めが禁止され(同法8条),65歳未満の定年を定める場合には65歳までの雇用を確保するため,定年の引き上げ,継続雇用制度,定年の廃止のいずれかの措置を講じなければならない(同法9条)とされている。独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成26年の調査結果によれば,60歳定年を定めている企業の83%が定年後継続雇用制度を導入しており,このうち68.7%の企業では自社の正社員以外(嘱託・契約社員・パート等)での雇用である。
継続雇用制度については,高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば,最低賃金等の雇用に関するルールの範囲内で,フルタイム,パートタイム等の労働時間,賃金,待遇等に関して事業主と労働者の間で決めることができるとの行政解釈が示されていたところである(厚生労働省・高年齢者雇用安定法Q&A)が,本判決は,再雇用後の職務範囲について全く異なる別個の職務の提示をすることは,従前の職務全般について適格性を欠く等通常解雇を相当とする事情がない限り許されないという制限を加えたことが特徴的である。そもそも高年法が改正され65歳までの雇用維持が定めたのは厚生年金の支給開始年齢の引き上げに伴う無収入者が発生することを防止するためであったという経緯を踏まえれば,雇用の継続と一定の収入が確保されるかどうかが重要なはずであり,職務の同一性を義務付けるかのごとき裁判所の判断は疑問である。高裁判決を前提とすれば定年後に別個の職務を提示するためには,従前の職種全般について適格性を欠く等通常解雇を相当とする事情が必要ということになってしまい,企業の裁量を著しく制約することになるといわざるを得ない。本判決は特殊な事実関係における判断とも評価可能であるが,定年後再雇用制度の妥当線を検証するための参考のため紹介した次第である。