徳永・松崎・斉藤法律事務所

3名の警備体制における仮眠時間を労働時間と認めた裁判例
(I社事件・千葉地裁平成29年5月17日判決)

2017年12月04日更新

  1. 事件の概要
     I社の従業員としてショッピングセンターでの警備業務に従事していた原告が,仮眠時間や朝礼等に要した時間が労働時間に当たるとして,未払い割増賃金と付加金の請求を行った事案です。
  2. 判決の要旨
     判決は,「実作業に従事していない不活動時間であっても,役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労基法上の労働時間に当たる」とした上で,仮眠時間や休憩時間,着替えや朝礼に要した時間について,いずれも「労働からの解放が保障されていない」として労働時間と認定し,原告の請求額の大部分を認容しました。
  3. 3名の警備体制における仮眠時間の労働時間性
    1. 中でも,3名の警備体制であったT店における仮眠時間を労働時間として認定した点は,若干厳しく感じます。
       T店の夜間の警備は3名体制で,常に1名は勤務時間となるように組まれており,実際に仮眠時間中に近場のコンビニに買い物に行ったり,食事に行ったりする者もいました。
       しかし,手順書等において「警備員は防災センターを無人にしない」「警報が発報した場合は直ちに発報エリアの現場確認を行う」と記載されていたことについて,「勤務時間中の警備員には防災センターにおける対応を求め,仮眠時間中の警備員には現場確認を求める趣旨である」などとして,「仮眠時間の間,発報等に対して直ちに相応の対応をすることが義務付けられていた」と判断しました。
       そして,仮眠時間中に対応を求められる頻度は,「1名あたり1年間で平均2回ないし4回程度」でしたが,「実質的に上記の義務付けがなされていないと評価できるような事情(例えば,実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいという事情)は認められない」と判断しました。
    2. 複数名の警備体制が組まれ,近場への買い物や食事に出ることも可能であれば,「労働からの解放が保障されている」との評価もあり得るのではないかと思えます。
       また,実際にも「1名あたり1年間で平均2回ないし4回程度」の頻度であれば,「実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい」として労働時間性を否定しても良かったように思えるところです。
       本裁判例に示されるように,労働時間性の判断は非常に微妙であり,裁判官の心証次第という面も否定できません。
       本件では,手順書等の書き物において,仮眠時間中の対応を求めるような記載が複数あったことが,裁判官の心証を悪くしたようにも感じますので,社内のマニュアルや掲示などにおいて,労働時間に関する自社の整理と矛盾するような記載がないか,今一度チェック頂ければと思います。
  4. 消滅時効に関する法改正の動向にご注意!
     ところで,民法の債権法改正が今年5月に成立し,3年以内に施行されます。債権の消滅時効についても改正がなされ,「権利行使できることを知った時から5年」に統一されることになりました。
     賃金等の消滅時効を2年と定める労基法115条は,今回の改正の対象からは外れましたが,法制審議会や国会において「改正民法と同様の規律とすべき」との見解も主張され,今後,労働政策審議会において議論される予定になっています。
     仮に賃金等の消滅時効が5年となった場合,企業において未払い割増賃金を請求された場合のリスクが著しく増大することは明らかです。法改正の動向に留意頂くとともに,未払い割増賃金が発生しない仕組みとなっているか,改めてご確認頂く必要があるものと思います。

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