コンビニエンスストアのオーナーとの団体交渉応諾義務の有無
~ファミリーマート不当労働行為再審査事件(平成27年(不再)第13号)など~
2019年04月25日更新
- コンビニエンスストアのオーナーは,コンビニエンスストアを運営する会社(運営会社)とフランチャイズ契約を締結して店舗を運営していますが,運営会社との間で労働契約を締結しているわけではありません。労働契約を締結していないにもかかわらず,オーナーが加盟している労働組合からフランチャイズ契約の内容等について団体交渉に応じるように求められることは少なくありません。このような場合,企業としては団体交渉に応じる必要があるのでしょうか。
- 労働組合法では,使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しており(労働組合法第7条),使用者がこれに違反する場合には労働委員会による行政救済手続きを受けることになっています。労働基準法における労働者は,「職業の種類を問わず,事業または事業所…に使用される者で,賃金を支払われる者」(労基法9条)とされていますが,フランチャイズ契約におけるオーナーは,賃金を支払われているわけではありませんから,労働基準法に定める「労働者」には当たらないことになります。労働組合法における「労働者」は「職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されています(労組法3条)が,これが労働基準法における労働者と同じ意味であれば,オーナーからの団体交渉に応じる必要はないことになるはずです。
しかしながら,労働組合法における労働者は労働基準法における労働者とは同一ではなく,労組法の趣旨等に照らし,①事業組織への組み入れ,②契約内容の一方的・定型的決定,③報酬の労務対価性,④業務の依頼に応ずべき関係,⑤広い意味での指揮監督下の労務提供および一定の時間的場所的拘束,⑥顕著な事業者性の有無等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきとされています(新国立劇場運営財団事件・最三小判平23・4・12民集65・3・943,INAXメンテナンス事件・最三小判平23・4・12労判1026・27等)。つまり,労働組合法上の労働者は労働基準法における労働者よりも広い概念ということになりますので,労働契約がないということだけで団体交渉を拒否すると不当労働行為に該当する可能性があることになります。 - コンビニエンスストアのオーナーからの団体交渉申し入れに対して,オーナーは労組法上の労働者にないとして団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に該当するとした2つの労働委員会の命令が存在していました(ファミリーマート事件・東京都労委命令平27・3・17,セブンイレブン事件・岡山県労委命令平成26・3・13)。この2つの労働委員会命令では,上記判断基準に沿ったものの,フランチャイズの運営事業に組み入れられており(①),定型的な契約を余儀なくされている(②),報酬に労務対価性が認められる(③),広い意味での指揮監督のもとに労務を提供している(⑤),顕著な事業者性は認められない(⑥)として,労組法上の労働者に該当するとして,運営会社の団交拒否は不当労働行為に該当すると判断していました。しかしながら,このような判断はフランチャイズの運営実態を見誤ったもので不当であると思われます。また,労働委員会がフランチャイズ契約上の問題点について,その当否を判断する能力を備えているとは考えにくい点からも,団体交渉という形でフランチャイズ契約から生じる問題点を改善しようとするのは妥当ではないと思われます。(なお,この命令の概要等については,経営法曹会議「経営法曹」189号102頁をご参照ください。)
- 平成31年3月15日に交付されたこれら2件の再審査事件について,中央労働委員会の命令では,オーナーは,運営会社の事業活動に不可欠な労働力として会社の事業組織に組み入れられていると評価することはできない(①),オーナーが労務供給の対価として報酬を受け取っているということはできない(③),顕著な事業者性が認められる(⑥)としたうえで,オーナーは労組法上の労働者には当たらず,運営会社の団体交渉拒否は不当労働行為には該当しないと判断しました。この判断はフランチャイズ契約における実態を正しく把握した妥当なものです。そもそも,フランチャイズ契約における当事者間の交渉力の格差は,経済法の観点から是正を図るべきであり,労組法において解決すべきものではないことからも,今回の判断は是認できます。
労働組合側は今回の中労委命令に対して,行政訴訟を提起する意向とのことですが,裁判所がどのような判断を下すのか注目したいところです。