徳永・松崎・斉藤法律事務所

同一労働・同一賃金に関する一連の最高裁判決
(大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件・日本郵便事件)

2020年12月16日更新

  1.  はじめに
    令和2年10月,正社員と有期社員の労働条件格差の不合理性(旧労働契約法20条)が争われた5つの事件について,最高裁判決が出ました。
    いずれも個別の事案に関する判断であり,結論自体を直ちに一般化できるものではありませんが,制度設計において参照すべき大変重要な判決です。
    紙面の都合上,ごく簡単なものになってしまいますが,ご紹介します。
  2.  大阪医科薬科大学事件(最高裁令和2年10月13日判決)
    1.  事案
      正職員には通年で基本給4.6か月分の賞与が支給されるのに対して,時給制のアルバイト職員(期間1年・3回更新)には支給されないことなどが労契法20条に違反するとして争われました。
    2.  最高裁の判断
      一般論として,「賞与の支給に関する相違が不合理と認められる場合もある」とし,「当該使用者における賞与の性質・目的を踏まえて,諸事情を考慮して不合理か否かを検討すべき」としました。
      その上で,「本件賞与は,正職員としての人材の確保や定着を図るなどの目的で支給するもの」とし,「正職員とアルバイト職員の間には,職務の内容・変更の範囲に一定の相違があった」「正職員への登用制度が設けられていた」などとして,「不合理と評価することはできない」と結論づけました。
    3.  検討
      契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されており,高裁では,アルバイト職員にも正職員の60%を支給すべき旨の判断が示されていましたが,最高裁は不支給も不合理でないとしました。
      「正社員人材の確保・定着」という目的を重視した点が特徴的ですが,「正社員への登用制度の存在」なども合理性の根拠として挙げられていますので,制度設計においては引き続き慎重に検討する必要があると思います。
  3.  メトロコマース事件(最高裁令和2年10月13日判決)
    1.  事案
      正職員には退職金が支給されるのに対して,契約社員(多数回更新・10年程度勤続)には支給されないことなどが労契法20条に違反するとして争われました。
    2.  最高裁の判断
      一般論としては,上記2の賞与と同様に,「退職金の支給に関する相違が不合理と認められる場合もある」とし,「当該使用者における退職金の性質・目的を踏まえて,諸事情を考慮して不合理か否かを検討すべき」としました。
      その上で,「本件退職金は,正社員としての人材の確保や定着を図るなどの目的で支給するもの」とし,「正社員と契約社員の間には,職務の内容・変更の範囲に一定の相違があった」「正社員への登用制度が設けられていた」などとして,「不合理と評価することはできない」と結論づけました。
    3.  検討
      高裁では,本件の契約社員にも正社員の退職金の4分の1を支給すべき旨の判断が示されていましたが,最高裁は不支給も不合理でないとしました。
      賞与と同様に「正社員人材の確保・定着」という目的を重視した点が特徴的ですが,判決には反対意見が付されており,最高裁の裁判官の中でも意見が分かれた論点です。特に長期間にわたって勤務してきた契約社員については,「労務対価の後払い」「功労報償」といった退職金の趣旨が妥当する面もありますので,引き続き慎重に検討する必要があると思います。
  4.  日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件(最高裁令和2年10月15日判決)
    1.  事案
      正社員には,夏季冬季休暇,私傷病による病気休暇(有給),年末年始勤務手当,扶養手当などが支給されるのに対して,時給制・月給制の契約社員(多数回更新・3年~10年程度勤続)には支給されないことなどが労契法20条に違反するとして争われました。
    2.  最高裁の判断
      一般論として,「個々の賃金項目にかかる労働条件の相違の不合理性の判断に当たっては,個々の賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」「賃金以外の労働条件の相違についても,同様に個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべき」としました。
      その上で,夏季冬季休暇について「労働から離れることにより心身の回復を図るという目的によるもの」,年末年始勤務手当について「多くの労働者が休日として過ごしている期間において業務に従事したことに対して支給される対価」とし,その趣旨は契約社員にも妥当するとして,不合理な相違であるとしました。
      また,病気休暇(有給)について「生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて継続的な雇用を確保する目的のもの」,扶養手当について「扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて継続的な雇用を確保する目的のもの」とし,「相応に継続的な勤務が見込まれる」契約社員についてはその趣旨が妥当するとして,不合理な相違であるとしました。
    3.  検討
      賞与や退職金に関する判断と異なり,労契法20条に関する先例(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件/最判平成30年6月1日)の判断枠組みを踏襲し,個々の労働条件の趣旨・性質を重視して,その趣旨・性質が契約社員にも妥当するものか否かを基に判断しました。
      賞与や退職金は複合的な趣旨・性質を有するのに対して,上記のような手当・休暇等については趣旨・性質がある程度明確ですので,制度設計においても本判決と同様の考え方で検討する必要があると思います。
  5.  おわりに
    上記の5判決は,旧労働契約法20条に関する判断です。正社員と有期社員の労働条件格差の不合理性については,現行法では,短時間・有期雇用労働法8条に取り込まれており,旧労働契約法20条と比較すると一部文言も改正されています。また,現行法の解釈については「同一労働同一賃金ガイドライン」が策定されており,上記の判決とは異なる内容も含まれています。
    従いまして,今後,本論点が裁判で争われたときには,上記の判決と異なる解釈がなされる可能性も否定できませんので,その点も踏まえて制度設計を行っていく必要があります。

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