徳永・松崎・斉藤法律事務所

コロナ禍による人員整理に関する裁判例
~センバ流通(仮処分)事件・仙台地決令2.8.21~

2021年08月16日更新

永原 豪 弁護士

  1.  はじめに
     昨年からの新型コロナウイルス感染症については収束する気配がありません。本年1月の国(財務省)の調査結果によれば,約6割の企業において依然として業績が悪化しており,サービス業(宿泊・飲食,運輸等)を中心として厳しい状況が続いているということです。業績の悪化に伴い,給与の削減や人員の削減等の対応に踏み切らざるを得ない企業も少なくありません。
     福岡でも,コロナ禍による業績の悪化とした整理解雇等について裁判所の判断(整理解雇は無効)が報道されていますが,今回は,コロナ禍におけるタクシー乗務員らの整理解雇の有効性が問題となった裁判例をご紹介します。
  2.  事案の概要等
     仙台市内を営業エリアとするタクシー会社(Y)が,コロナ禍のため利用客が激減したため,事業継続のため人件費を削減する必要があるとして実施した整理解雇により解雇された有期雇用契約者であった甲らが解雇無効等を主張した事案です。
     裁判所は,甲らの解雇は,有期雇用期間中の解雇であるから「やむを得ない事由」が必要であるとし,その判断枠組みについて①人員削減の必要性,②解雇回避措置の相当性,③人員選択の合理性,④手続きの相当性の各要素を考慮して判断すべき(4要素)と判断しました。そのうえで各要素に関し,以下のようにのべたうえで,本件解雇が有期労働契約中の整理解雇であることを総合的に考慮すると,「やむを得ない事由」を欠いており,無効であると判断しました。

    1.  人員削減の必要性について
       Yの令和2年4月の収支が,運賃収入501万円,経費1902万円となり,単月1415万円もの支出超過となっていること,Yの資産について3133万円の資産超過となっていることから,人員削減の必要性があること及びその必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことについては一応認められるとしました。しかしながら,従業員を休業させることで6割の休業手当の支出に留めることが可能であり,雇用調整助成金の申請をすればその大半が補填されることがほぼ確実であった等としたうえで,人員整理の必要性は直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明があるとは言えないと判断しました。
       Yは,タクシー事業が月額500万円以上の赤字であること,雇用調整助成金の支給時期が不明確であること,多額の未払い費用が存在したことなどを主張しましたが,雇用調整助成金等によって翌月以降の収支は大幅な改善の余地があったこと,未払い費用は直ちに全額の弁済が必要とは認められないこと,代表者や金融機関から融資を受ける余地も十分あったということで人員削減の必要性があったというYの主張を退けました。
    2.  解雇回避措置の相当性
       一部従業員の休業等を実施したものの,厚労省や宮城県タクシー協会や東北運輸局など雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用を強く要請していたにも関わらずこれらを活用しておらず,解雇回避阻止の相当性は相当に低いと判断しました。
    3.  人員選択の合理性及び手続の相当性について
       人員選択の合理性についての疎明がなく,十分な説明もなされていないとして,人員選択の合理性及び手続の相当性も低いと判断しました。
  3.  考察
     Yの収支状況に鑑みると,裁判所も認める通り,人員削減の必要性があること及びその必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことについては認められてしかるべきだったのではないかと思います。裁判所は雇用調整助成金の申請をしていないことを重く見ているようですが,当時は同助成金の申請が殺到している状態であり,申請してもいつ助成金が支給されるかは不明であったというのが実情であり,裁判所が申請翌月から助成金が支給されることを前提として判断している点は疑問が残ります。また,代表者や金融機関からの融資の余地があることを理由の一つとしている点も企業側からすると到底納得できる理由ではないように思います。今回の裁判所の判断が一般的なものになるとは思えませんが,コロナ禍における整理解雇について判断した事例ということで紹介させていただきました。
     なお,本年9月の経営法曹会議の実務研究会において,「コロナ禍における給与削減と人員整理」をテーマとして,斉藤・永原両名が発表いたします。興味がある方は是非ご視聴ください(ZOOMオンライン開催です。)。

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