パワハラ行為の認定と懲戒処分
2021年12月08日更新
- パワーハラスメント行為の事実調査主体
通報等により使用者がパワーハラスメント行為の疑いを認識した場合,当該通報内容が明らかにパワハラに該当せず問題とならないというような場合を除き,本当にそのような事実があったのかどうかを確定するため,何らかの調査を行うこととなります。
使用者の調査の主体としては,①コンプライアンス担当部署等による社内調査,②社内委員会による調査,③外部委員を入れた第三者委員会による調査があります。通報内容によって,いずれの調査主体が適当か検討することとなります。
まず,通報を受けたら,いずれにせよ最初に①のコンプライアンス担当部署による社内調査を行うことが多いと思います。その結果,調査の目的である事実認定について,①の調査で十分であると判断される場合が多いのではないでしょうか。
しかしながら,①の調査の結果,事実認定が難しい場合や,調査対象者の範囲が広がるなど①での調査が不十分となるおそれがあると判断される場合は,②か③による調査を検討することとなります。
パワハラにより被害者が自殺するなど重い結果である場合や,加害者の地位が高く社内調査ではきちんとした調査ができないような事情があるという事情は,③を選択する要素となります。
弁護士が直接委員となって関与するのは③の場合ですが,①や②の場合も,顧問弁護士等が企業への助言を行うことが多いと思われます。また,③の場合,第三者委員会は,事実認定にとどまらず,当該行為がパワハラに該当するか否かの評価や,当該行為が発生した背景を分析し,再発防止策の提言まで行うことが多いと思われます。 - 調査結果と対応
- 調査の結果,パワーハラスメント行為が認められた場合,これをもとに適切に対応しなければなりません。事実として認定された行為について,行為者の懲戒処分や,被害者に対するケア,場合によっては損害賠償などの対応を行い,再発防止策を検討する必要があります。
就業規則等の服務規律等を定めた文書によりパワハラ禁止方針を規定し,懲戒規定を定めているはずですので(2020年6月施行改正労働施策総合推進法。中小企業は2022年4月施行),これに基づき行為者の処分を検討します。
処分内容は,行為の態様や回数,被害者の数などに加え,行為者の反省,被害者の心情,場合によっては示談の結果等の情状を加味しながら決定することとなります。 - ところで,高知地裁令和3年5月21日判決では,第三者委員会の調査の結果認定したパワハラ行為をもとにした懲戒解雇が無効とされました。客観的事実が認められず,パワハラに該当すると認められないから懲戒解雇事由は存在しないということが理由です。
第三者委員会が調査の結果認定した多数の事実は,時期の特定がなされていなかったり,すでに調査から8年ほどの長期間経過しているなどしていたところ,客観的資料による裏付けがないため,パワハラ行為を訴えた被害者側の陳述のみでは事実として認定ができないとされました。
行為から長期間経過した場合,客観的証拠は散逸しますし,第三者の証言も得にくくなりますので,事実認定のハードルは上がるといえます。本件は,裁判所の求める事実認定のレベルと,第三者委員会,ひいては使用者側の事実認定レベルの乖離があり得ることを示しており,このことは,①の段階の事実認定を行う際にも十分留意すべきであると思います。
- 調査の結果,パワーハラスメント行為が認められた場合,これをもとに適切に対応しなければなりません。事実として認定された行為について,行為者の懲戒処分や,被害者に対するケア,場合によっては損害賠償などの対応を行い,再発防止策を検討する必要があります。