旅費の不正受給を理由とする懲戒解雇についての逆転敗訴判決
(日本郵便(北海道支社)事件・札幌高裁令和3年11月17日判決)
2022年06月06日更新
- 事件の概要
北海道支社の広域インストラクターの職務にあった従業員Xが,1年半の期間に100回にわたって,社用車で出張しながら公共交通機関を利用したとして,50万円を超える額の旅費等の不正受給を行った件について,会社が懲戒解雇とした事案です。
一審判決(札幌地裁令和2年1月23日判決)は,本件非違行為について悪質性が高く,常習性があり,不正受給額が看過できない規模であるとして,懲戒解雇を有効と判断しました。
これに対し,札幌高裁は,同様の非違行為をした営業インストラクターAに対する処分(停職3ヶ月)と均衡を欠くこと等を理由に,懲戒解雇を無効と判断し,会社側の逆転敗訴となりました。 - 判決の要旨
札幌高裁は,以下のとおり判示して懲戒解雇を無効としました。- 懲戒解雇のXと,停職3ヶ月のAとでは,Xの方が不正受給額は大きい(Xは54万円,Aは28万円)が,期間や回数は少ない(Xは1年半・100回,Aは3年半・247回)。
- 不正受給した旅費等の使途について,Xは,宿泊費が支給されない出張時に宿泊する際の宿泊費や,訪問先郵便局社員との懇親会等の飲食代に充てたとのことであり,全くの私用の宿泊費ではなく,懇親会等も全くの私的な会合ではなく業務の延長上という意味合いを含む会合といえ,Aの使途(郵便局への差入代など)と同趣旨の使途に充てられたものも相当程度含まれる。
- [1][2]の事情等を総合すれば,Xの本件非違行為の態様等は,停職3ヶ月の懲戒処分を受けたAと概ね同程度といえる。
本件非違行為は,非違の程度が軽いとはいえないが,利得額を全額返還していることその他の酌むべき事情も認められ,Xについて懲戒解雇とするのは,Aとの均衡も失すると言わざるを得ない。
- 検討
手当の詐取など金銭をめぐる不正については,会社において重い懲戒処分がなされることが一般的であり,裁判所においても有効性が認められることが多いところです。
本件非違行為についても,50万円を超える不正受給ということで,懲戒解雇も視野に入ってくる事案ですが,同様の非違行為を行った従業員に対する懲戒処分との差異(懲戒解雇と停職3ヶ月)について,不正受給額の差異(54万円と28万円)や職位の差異(広域インストラクターと一般の営業インストラクター)では,十分な差異でないと判断されました。
懲戒処分の程度を決定する際には,本件のように同時期に発覚した同様の非違行為に対する処分はもちろん,過去の処分事例についても慎重に考慮し,本件裁判例のように「均衡を失する」と評価されないよう十分ご留意いただく必要があります。