徳永・松崎・斉藤法律事務所

70歳までの高年齢者就業確保措置

2023年02月09日更新

斉藤 芳朗 弁護士

  1. 高年法の改正
    1.  令和3年(2021年)4月1日から施行されている高年法では、以下のような70歳までの高年齢者就労確保措置が定められております(大まかな事項のみ記載します)。
      ① 70歳までの定年引上げ
      ② 70歳までの創業支援等措置
      ③ 70歳までの継続雇用制度
    2.  高年齢者就労確保措置は、努力義務とされておりますので、65歳までの継続雇用制度と異なり、企業が必ず実施しなければならない措置ではありません。(対応済みの企業は、ある調査によると20%程度とのことです。)
    3.  以下、順に検討してみます。
  2. 70歳までの定年引上げ(①)
    1.  多くの企業の定年は、現状60歳とされていると思われますが、これを一気に70歳まで引き上げるという方法です。
    2.  60歳代はまだまだ十分働ける(戦力となる)、人材確保のためにも高齢者の方々の能力を維持したい等の必要性があれば、検討に値する方策です。
    3.  その場合の処遇について考えてみます。多くの企業で65歳までの継続雇用制度が導入されていますが、この制度ですと、60歳で退職金を受け取った後、60歳定年時よりも低い処遇(例 定年時の1/2の賃金)で稼働している事例が大半と思われます。
      65歳以降の賃金をさらに減額すること(例 定年時の1/4の賃金)は可能です。65歳以降の処遇について規定はなく、既存の給与規定の変更(労契法10条)には該当せず、企業が自由に額を設定できるためです。
    4.  問題となるのは、60歳から65歳までの賃金を減額して(例 定年時の約1/3の賃金)、その減額分を原資として、70歳までの賃金(同)に充てるという方法が可能か否かです。65歳までの賃金を規定している給与規定をいじるため就業規則の不利益変更となります。
      簡単に結論が出させる問題ではありませんが、①まず、この制度を説明して自由意思により納得した従業員に対しては、規定の変更の効力が及びます(労契法9条)。②つぎに、70歳までの雇用が確保されることは従業員にとって利益となること、他方で賃金原資を確保するため60歳以前の働き盛りの従業員の処遇に手を加えることは相当でないこと等を考えれば、合理性(同法10条)のある改定といえるかもしれません(平成4年の第四銀行事件最高裁判決も同じ趣旨を述べております)。
  3. 70歳までの創業支援等措置(②)
    1.  これは、65歳以上の高齢者に独立した事業者となってもらい、会社が事業者となった高齢者に対して仕事を発注する等といった対応を取ることをいいます。
      雇用契約=賃金=労働法、を改めて、委託契約=委託料=一般民事法、とする制度です。
    2.  高齢者の方が、企業に長年勤務して培った技術(例 語学)、コネクション(例 取引先との付き合い)を生かしたり、元々有していた能力(例 楽器の演奏)を再開花させたりして、小規模の独立事業家となり、その事業を企業が有償で利用することとなります。
      事業家となることに適した能力、技術と衰えない活力を有する高齢者であれば、このような措置も可能と思われます。
    3.  問題は、発注額をどの程度とするのか、70歳までの間に高齢者の能力が落ちた場合どうなるのか、です。
      いずれの場合についても、企業が定める契約書に規定されるはずですので(例 年間50万円以上発注する、能力低下が認められた場合契約を解除することができる)、その内容に納得した高齢者がこの制度を選択することになるはずです。
  4. 70歳までの継続雇用制度(③)
    1.  現在行われている65歳までの継続雇用制度に類する制度を作り、これを70歳まで適用するという方法です。
    2.  制度設計は自由であり、適用される従業員の範囲、処遇、契約期間等を就業規則等で規定して、これを適用することとなります。処遇のうち、賃金に関しては、これを制約する法理はなく(最賃法の適用はある)、企業が自由に決めることができます。
    3.  ここでも、2(4)と同じ問題が発生します。
       定年延長程の地位の安定性はありませんが、希望すれば65歳以降も勤務できる実態があり、多くの従業員が歓迎しているというのであれば、60歳以降の賃金をいじることは不当とはいえないと思われます。
      あとは、程度の問題であり、若干減額しその減額分に若干加算した金額を65歳以降の賃金とする、というのであれば、合理性が出てくるものと思われます。

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