徳永・松崎・斉藤法律事務所

女性労働者に関するデータの公表義務化

2023年03月27日更新

家永 由佳里 弁護士

  1.  男女の賃金の差異の公表義務付け
    1.  男女別賃金の差異の公表義務
      女性活躍推進法20条1項は,一般事業主のうち常時雇用する労働者の数が100人を超えるものは,職業生活を営み,または営もうとする女性の職業生活に資するよう,その事業における女性の職業生活における活躍に関する情報を定期的に公表しなければならないこととしている。
      この度,女性活躍推進法が改正され,常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して「男女の賃金の差異」の公表が義務付けられた(女性活躍推進法19条1項1号リ,令和4年7月8日公布・施行)。
    2.  具体的な開示について
      (厚労省告示雇均発07082号(最終改正令和4年12月28日雇均発1228第1号))

      1. ア ①雇用する全ての労働者②正規雇用の労働者(期間の定めのない雇用契約を締結している労働者)③非正規雇用の労働者(派遣労働者を除く短時間かつ有期雇用契約を締結している労働者)の3つの雇用管理区分ごとに,男女別賃金格差を公表する。
      2. イ 連結ではなく単体での情報公表が必要である。
      3. ウ 「差異」とは,その雇用する男性労働者の賃金の平均に対するその雇用する女性労働者の賃金の平均を示したものである。
      4. エ 人員数の数え方については,男女で異なる数え方をしないこと,初回の公表以降将来に向かって繰り返し行う公表を通じて一貫性ある方法を採ること,人員数の数え方を変更する必要が生じた場合は,人員数の数え方を変更した旨及び変更した理由を明らかにしなければならない。
      5. オ パート労働者に関しては,正社員の所定労働時間を参考として人員数を換算することも可能であるが,注記する必要がある。
    3.  開示の時期と方法
      開示時期は,事業年度が終了し,新たな事業年度が開始した後速やかに(概ね3か月以内)に公表するとされている。事業年度が令和5年3月に終了する場合,同年6月末までの公表が必要である。
      開示の方法は,他の情報項目と同様に厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」へのアップや自社ホームページの利用その他により,求職者等が容易に閲覧できるようにする必要がある。
  2.  有価証券報告書における人的資本の開示
    1.  人的資本の開示義務
      「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正案が公表され,令和5年3月期の有価証券報告書から,非財務情報の開示が義務付けられる予定である。
      非財務情報のうち人的資本については,コーポレートガバナンス・コードの改正による人的資本に関する補充原則(第3章原則3-1③,第4章原則4-2②)追加等の流れもあり,開示が義務化される。開示項目は①人材育成方針②育児休業の取得率③男女間の賃金格差④女性管理職の比率となっている。
    2.  人的資本可視化指針の策定
      内閣官房が策定した人的資本可視化指針(令和4年8月30日)において開示が望ましい19項目が挙げられている。これらの項目は6分野に分けられているが,そのうちダイバーシティ分野において,「多様性を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針」が必須項目とされている。
      これに関し,金融庁は令和4年11月7日「企業内容の開示に関する内閣府令等の改正案の公表について」において,「女性管理職比率」「男性育児休暇取得率」「男女賃金格差」を公開している企業はこれらの指標を有価証券報告書にも記載するように要請している。
      したがって,少なくとも,1で述べた開示項目は,有価証券報告書にも記載することとなる。
  3.  まとめ
    女性労働者に関するデータの公表が法定化され,労働市場における男女別の格差を縮小する流れが促進されると思われる。
    これに限らず,人的資本経営は世界的な流れであり,企業価値に大いに貢献するという視点をもって,労働者のエンゲージメントを高めていく必要がある。

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