徳永・松崎・斉藤法律事務所

アメックス事件
(東京高裁令和5年4月27日判決)

2023年12月27日更新

藤田 晃 弁護士

  1.  事案の概要
     本件は,被控訴人にて個人営業部のチームリーダーとして勤務していた控訴人が,産前産後休業および育児休業(以下,「育児休業等」)の取得を理由に,チームリーダーの役職を解かれたこと等が,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下,「均等法」)9条3項および「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下,「育介法」)10条,公序良俗(民法90条)等に違反し,人事権の濫用であって違法・無効であると主張して,被控訴人の個人営業部のチームリーダーまたはその相当職の地位にあることの確認等や,不法行為または雇用契約上の債務不履行に基づき,損害賠償等の支払いを求めた事案です。主な事実関係は以下のとおりです。

    1.  控訴人は,平成20年8月,被控訴人に契約社員として雇用され,22年1月に正社員となった後,個人顧客向けのセールスを行う部門で勤務し,26年1月には,チームリーダーに就任し,37名の部下を有するに至った。
    2.  被控訴人は,平成27年7月に控訴人が産前休業に入った後,28年1月に組織変更を行うこととなり,控訴人がリーダーを務めていたチームは消滅することとなった。28年8月,控訴人が育児休業等から復帰したところ,被控訴人は,組織変更により新設した部門であるアカウントセールス部門のマネージャーに配置し(以下,「本件措置1」),新規販路の開拓等の業務を担当させ,控訴人の部下は0人であった。なお,かかる配置は,降格等を伴うものではなく基本給等の減額はなかったが,業績連動給は減少した。
    3.  被控訴人は,平成29年1月に,さらに組織変更を行い,アカウントセールス等を担当する新設した部署のチームリーダーとしてCを配置した(以下,「本件措置2」)。
    4.  平成29年3月,被控訴人は人事評価において,控訴人のリーダーシップに関する項目を最低評価とした(以下,「本件措置3」)。
  2.  東京高裁の判断
     東京高裁は,均等法9条3項及び育介法10条が強行規定であるとしたうえで,「基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても,業務の内容面において質が著しく低下し,将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては,労働者に不利な影響をもたらす処遇に当たるというべきところ,・・・女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業等を理由として,労働者につき,育児休業申出,育児休業等を理由として,上記のような不利益な配置の変更を行う事業主の措置は,原則として同各項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,・・・当該労働者につき自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき当該措置を執ることなく産前産後の休業から復帰させることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,・・・当該措置につき均等法9条3項又は育介法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同各規定の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である」としました。
     そして,本件措置1が「不利益な取扱い」に当たるかについて,業務の内容面における質の低下,業績連動給の減少のほかに,実績を積み重ねてきた控訴人のキャリア形成に配慮せず,これを損なうものであることを指摘し,控訴人が自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在せず,当該措置につき均等法9条3項又は育介法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情も存在しないとして,本件措置1は,復職した控訴人に一人の部下もつけずに新規販路の開拓に関する業務を行わせ,その後間もなく専ら電話営業に従事させたという限度において,均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たり,公序良俗にも反するとしました。また,本件措置2,本件措置3についても,均等法9条3項及び育介法10条が禁止する「不利益な取扱い」に当たり,かつ,公序良俗にも反するとされました。
  3.  コメント
     上記のとおり,東京高裁は上記措置を違法と判断したものですが,本判決は実務的に重要な意義を持つものになります。
     均等法や育介法が禁止する不利益な取扱いについて,例えば,解雇や降格などの不利益な処分がこれに当たることは明らかであり,これまで,均等法9条3項や育児介法10条について争われる事案は,労働者に経済的不利益が生じているものが多かったといえます。
     一方,本件では,当該労働者に経済的不利益が生じているとは即座に断言しがたい事案であるといえます。本判決では,均等法9条3項や育介法10条が想定する不利益として労働者のキャリア形成への影響が挙げられており,キャリア形成の期待を不利益性の中で判断しているという点で,実務上参考になると思われます。
     育児休業等から復帰した労働者の配置転換を行う際には,当該配置転換が違法なものではないかを経済的損失の有無のみで判断するのではなく,キャリア形成の期待への配慮も含めて,慎重に検討することが求められます。

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