宛先やCCに該当者以外を入れ,部下を叱責するメールを送信したこと等による譴責処分が有効とされた事例
(ちふれホールディングス事件・東京地裁令和5年1月30日判決)
2024年04月03日更新
- 事件の概要
アジア市場部の副課長の立場にある原告が,部下であるAおよびBに対して行った以下の行為について,就業規則上の懲戒事由である「上司としての地位を利用した嫌がらせ」に該当するか否かが争われました。- Aに対する行為
- Aと原告は,アジア市場における広告代理店の選定について意見の対立があり,何度もメールのやり取りを行っていた。
- メールのやり取りには,途中からD本部長や別の2名もCCに入っていたところ,D本部長が「建設的でない狭い議論になっている」「引き続きAを中心にこの検討を進めるように」と指示するメールを送信した。
- 原告は,宛先をA及びD本部長とし,CCに別の2名を入れたまま,AやD本部長のメール内容が元々の打ち合わせ内容とは違う旨を指摘するとともに,「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」と記載したメールを送信した。
- Bに対する行為
- 原告は,タイ出張中,Bに不手際があったことについて,Bに対して口頭で注意した。
- Bは,原告の指導態様について,別の上司であったEに相談した。Eは,原告とも面談して,経緯を尋ねるなどした。
- 原告は,Bに対し,「Bを社内的に守ったり,仕事を教えたりするのは,今の組織では私の役割」などとLINEで送信した上で,「何を聞かれたんですか?」「他から何か言われたのなら,それも報告してもらうのが筋」「僕は質問してるんです」などと繰り返しLINEで送信し,別の上司であるEとの面談内容を聴き出そうとした。
- Aに対する行為
- 判決の要旨
東京地裁は,以下のとおり判示して,原告の行為について「上司としての地位を利用した嫌がらせ」に該当すると判断し,原告に対する譴責処分を有効であると判断しました。- Aに対する行為について
- 原告のメールの「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」との文言は,Aの言動について客観的な事実を指摘することなく,感情的にAを叱責する印象を与えるものであったことは否定し難い。
- 原告のメールは,D本部長から「Aが中心になって検討を進めて欲しい」との指示を受けた後に,A以外の者を宛先やCCに入れたまま送信されたものであった。
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えてAを叱責するものであった。
- Bに対する行為について
- Bと別の上司であるEとの面談内容は,原告の指導態様についてのものであり,原告に開示されるべきものではなく,原告との関係においては,Bの私的領域に含まれる事項。
- 原告からのLINEメッセージは,上司であった原告に報告すべきであると主張して,面談内容を複数回にわたって聴き出そうとしたものであり,上司としての地位を利用して,Bの私的領域に踏み込むものであった。
- Aに対する行為について
- 検討
Aに対するメール送信について,同種の事案として,三井住友海上火災保険会社事件(東京高判平成17年4月20日/上司が,部下に対し,赤い大きな文字で「やる気がないなら会社を辞めるべき」「損失そのもの」と書いたメールを本人のほか同僚十数名に一斉送信した行為について違法であると判断した事案)があります。
本件では,「目に余る」との表現は人格・名誉侵害の程度としてはそこまで酷くないようにも思われ,また,宛先・CCの同僚等も原告がわざわざ入れたわけではなく従前のメールのやり取りから入っていた事案でしたが,「嫌がらせ」と認定されました。
部下に対して叱責する場合は,①客観的事実を指摘しながら行うこと,②他の同僚等の目に触れない場で行うことがやはり重要であると分かる裁判例であると思います。
また,Bに対する行為について,他の上司との面談内容を聴き出そうとする行為が不当な行為(嫌がらせ)であると正面から判断したものであり,一つの事例として参考になると思います。