事業場外労働のみなし制の適用が争われた事例
(協同組合グローブ事件・最高裁第三小法廷令和6年4月16日判決)
2024年12月18日更新
- 事案の概要
本件は,外国人の技能実習に係る監理団体に雇用され指導員として勤務していた従業員が,実習実施者に対する訪問指導を行うほか,技能実習生のための送迎,日常の生活指導,急なトラブル対応の際の通訳などの業務に従事し,それにより相当程度の時間外労働が存在すると主張し,未払賃金を請求した事案です(訴訟全体の争点は多岐にわたりますが,最高裁で判断された部分に限ります。)。これに対し,監理団体側が,当該従業員の業務について労働基準法38条の2のいわゆる事業場外労働のみなし制(事業場施設の外で業務に従事した場合において,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間だけ労働したものとみなす制度)を主張したため,本件ではその要件である「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かが争点となりました。 - 裁判所の判断
- 原審の判断
原審(福岡高裁令和4年11月10日判決)は,業務の性質,内容等からみると,当該従業員の労働時間を監理団体が把握することは容易でなかったことを認めながらも,業務日報を通じて業務の遂行状況等につき報告を受けており,その記載内容について必要であれば実習実施者に確認することもできることから正確性は担保されていたこと,現に業務日報に基づき時間外労働を算定して残業代を支払う場合もあったことを指摘し,本件は「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました。 - 最高裁の判断
ア これに対し,最高裁は,以下のとおり述べて原審の判決を破棄し,福岡高裁に差し戻して,改めてこの点に関する審理するように求めました。
イ 本件業務は,実習実施者に対する訪問指導のほか,技能実習生の送迎,生活指導や急なトラブルの際の通訳等,多岐にわたるものであった。また,当該従業員は,訪問の予約を行うなど自ら具体的なスケジュールを管理しており,所定の休憩時間とは異なる時間に休憩を取ることや自らの判断により直行直帰することも許されており,随時具体的に指示を受けたり報告することもなかった。このような事情の下で,業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等を考慮すれば,監理団体において,当該従業員の勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難い。
ウ 原審は,業務日報について正確性が担保されていたとするが,実習実施者に問い合わせるという方法の現実的な可能性や実効性等は明らかではない。また,残業代を払った場合があったことについても,監理団体側は,業務日報の記載のみによらず労働時間を把握できた場合に限られる旨を主張している。これら業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情の検討は十分ではない。
エ よって,「労働時間を算定し難いとき」に当たるといえるかについて更に審理を尽くさせるため,この部分について原審に差し戻す。
情を具体的に検討することが必要になるものと思われます。
- 原審の判断
- コメント
- 事業場外労働のみなし制に関しては,海外旅行の添乗員について同制度の適用を否定した阪急トラベルサポート事件(最高裁第二小法廷平成26年1月24日判決)を参考判例として挙げることができます。本判決では,考慮要素として「業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等」を挙げていますが,これらの考慮要素は,阪急トラベルサポート事件で挙げられていたものと同じであり,判断枠組みとしては,従来の判例と変わるものではありません。
- 本判決は,その判断枠組みのなかで,原審が指摘する業務日報の正確性の担保について,より具体的な検討を求め,原審が述べるような確認(実習実施者への問合せ)が現実的に可能だったのか,実効性があったのかという点まで考慮するように求めたものです。本判決は,事業場外労働のみなし制の適用可否を判断するためには,判断枠組みのなかで述べられている「業務の性質,内容等」,「指示及び報告の方法,内容等」といった諸事情について,具体的かつ個別的な検討が必要であることを示唆するものであるといえます。
- 本判決の補足意見では,事業場外労働について,外勤や出張等の局面のみならず,在宅勤務やテレワークについて言及がなされ,「被用者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認められるか否かについて定型的に判断することは,一層難しくなっている」と述べられています。このうちテレワークについては厚生労働省のテレワークガイドラインにおいて,①情報通信機器が,使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと,②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと,の2つをいずれも満たす場合には事業場外労働のみなし制を適用することができるとされていますが,これらを満たすか否かという判断に際しても,本判決が示唆するように,個別の事情を具体的に検討することが必要になるものと思われます。